第3話 標準装備ねーのかよっ!?
弦人はとぼとぼと町を出た。
言葉が通じないので、ここにいても、どうしょうもない。
あー、こりゃ、森で自給自足パターンかー......
弱いモンスターとかやっつけたら食べられんのかなー......
弦人は、頭の中でスライムをチュルチュルとすする自分の姿を想像する。
ないわー......
弦人はそこで、もう一つ見つけていた一軒家の方のことを思い出す。
あっちにも行くだけ行ってみるか......
でも、言葉通じなかったら、意味ないか......
いや、もしかしたら、俺と同じように、元の世界から来ている人がいる可能性もある!
そうでなくても、行くだけ行ってみて、何か少しでも情報を集めよう!
弦人はその一軒家に向かうことにした。
迷わないように、また山に登って位置を再確認してから向かった。
一軒家に着いたころ、太陽はやや傾いていた。
感覚的には、1日の周期は地球に近いのかもしれないと、弦人は感じていた。
一軒家は木製のログハウスのような家で、家の周りには、馬小屋や畜舎と思しき建物、畑、牧柵などがあった。
畑には食べられそうな食物が植わっており、柵のなかには、豚や鶏と良く似た動物が飼われていた。
この家の家主は、この一帯だけで生活のほとんどを賄っているようだ。
「すみませーん! 誰かいませんかー!?」
弦人は大声で住人を探した。
すると、家の中から、家主と思しき人物が出てきた。
弦人はその人物の姿を見て息を飲んだ。
その人物は、弦人と同い年くらいの少女だった。
銀髪のロングヘアーに、青い瞳。
肌は雪のように白く、顔立ちはまるで妖精のようだ。
そして、その細い体を魔女のような黒いローブで包んでいた。
元の世界で言えば、北欧の美少女というのが近いだろうか。
弦人はその少女に魅入られていた。
弦人にとって、その少女はただ美しいというだけではなかった。
顔自体は人種が違うので、似ているはずもないのだが、その纏う雰囲気が、どこか、彼の知る人物に似ている気がした。
アオイ......
弦人は心の中でその人の名を呟いた。
「エステナ、アリクイド、オプス?」
弦人が固まっている間に、少女の方が声をかけてきた。
「ああ、えっと、その......」
弦人は我に帰り、しどろもどろになる。
「ホック、エスト、イグノータ、ベスティメンタ、スア」
「俺は、さっきこの世界に来たばっかりで、右も左もわからなくて......」
「プレテーリア、ベルバ、ヌンクワム、アウディービ」
「その、とにかく困ってまして、肉体労働とか、なんでもしますんで、食うものと寝るところを恵んでもらえませんか!?」
「ウンデ、ベニス?」
二人は、しばらくの間、会話になっていない会話をした。
ダメだ!!
やっぱり、全然通じねー!?
弦人は頭を抱えて、うずくまった。
少女も困った顔で弦人の方を見ている。
なんなんだこの世界は!?
異世界のくせに、チートスキルはねーし、言葉は通じねーし!!
異世界っつったら、チートスキルと自動翻訳は標準装備だろうが!?
それでも異世界か!?
他の異世界に謝れ!!
弦人は、怒りのやり場がなく、地面を蹴って蹴ってする。
ひとしきり、蹴り終わったあと、弦人はふうと深呼吸をした。
そろそろ、考え方を変えるか......
弦人は両手で自分の頬を叩いた。
俺は、なに舐めたこと考えてんだ!!
チートスキル?
んなもん、元の世界でもなかっただろうが!!
標準装備!?
俺の人生で、何か一つでも標準装備されてたものがあったか!?
彼の人生は苦難の連続だった。
彼は基本的に、同い年の同級生達より、あらゆる点で劣っていた。
人より計算が遅かった......
人より足が遅かった......
人より力が弱かった......
人より物覚えが悪かった......
数え上げればきりがない。
だが、その都度彼は、乗り越えてきた。
人より多く計算をした。
人より多く走った。
人より多く鍛えた。
人より多く覚えた。
異世界がなんだ!?
元の世界でも俺は常にアウェイだった!!
元の世界と、なんも条件は変わらねー!!
弦人は少女の方に向き直った。
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