8.二十四時間前
聖戦開始まで――――二十四時間。
第九階層の最奥部に存在する”無間”には、白妙の灯火がひとつ。
これが示すもの。それは宣告者――ヒルデにとって、ある意味では想像通りの結果であった。
あれだけのいがみ合いの後、全員で仲良くなどと言った結末になるはずもない。強大な魔王同士だからこそぶつかり合う威厳と誇り。
ヒルデの前にただ一人鎮座している
「あの…………よろしいのでしょうか?」
「何がだ?」
「えぇと……他の魔王の方々です」
「貴様が気にするような事ではない」
冷たく言い放たれた言葉に、ヒルデは視線を落とす。
魔界の代表を決める争いに口を出すつもりはない。そしてその勝者が誰であっても、ヒルデには関係のない事だ。
(でも……なんか嫌な予感がする)
聖戦参加者とは、聖戦開始九十六時間前に所定の場所に集まり、宣告者によって説明を受けた者の事を指す。つまりこの場にいない魔王たちも一応、聖戦参加者ではあるわけだ。
前回の聖戦時は「代表が誰か」などという無駄ないざこざが起こらなかった為、開始十二時間前に七名の魔王が無間に集まってくれていたのだが、今回は違う。
このままでは各階層に散らばっているであろう魔王たちの元まで駆けつけて、何度も説明をしなければいけない可能性がある。いや、それだけならいい。
もし今回の聖戦形式が代表者七名による団体戦だった場合、聖戦開始まで全員を集める事ができないという不測の事態が起こる可能性もある。
もしそうなれば最低でも宣告者失格。下手をすると神による粛清もあり得る。
(いや……どうしよ、ヤバいヤバいヤバいヤバい)
ヒルデは思考を高速回転させる。
こんな事なら、あの時「まだ代表を決めるのは早いので、とりあえず聖戦形式を聞いてからにしませんか?」みたいな事を言うべきだったと後悔に襲われる。
しかし今更そんな事を思っても無駄だ。
どちらにしろこんなに癖の強い魔王たちを、たかが宣告者の一言でどうにか出来たとは思えない。むしろ穏便に代表が決まった事に対して安堵してもいいくらいだ。いや、穏便だったかどうかは知らないが。
とりあえず、ヒルデは銀の魔王に軽く助けを求めてみる事にした。
「あ、あの……一応、他の魔王の皆様にも聖戦形式をお伝えしなければならないのですが……」
「そうか。好きにするといい」
「えっ……」
ヒルデは思わず眉をひそめた。
(えっ、それってどういう意味? 勝手にやってろって事!?)
思っていた反応ではなかった事に、心の中でため息をつく。
どこかで「では私が皆に声をかけてみよう」なんて言ってくれる事を期待していた自分が馬鹿だった。
幸い、まだ時間はある。今からなら聖戦開始までに宣告者としての役目は果たせるだろう。
そうと決まれば行動は早い方がいい。
ヒルデは素早く立ち上がり、軽く一礼をして無間を飛び出た。
「あと二十四時間……待っていろ愚かな神共よ。この聖戦が、貴様たちにとって
誰もいない無間に、ただ静かに銀の魔王の言葉が流れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます