第47話 ファイナルバトル

「な……ッ!? 君は……」


 フィンと呼ばれていた男は、信じられない物を見たかの様に目を見開く。

 それは当然だろう。

 何故なら、敵であるはずの俺が白灼を防いで皆を守ったからだ。


「――貴方はこの戦闘の是非ぜひについてどう考える?」

「え……?」

「こちらとしては、アースガルズ側が退くというなら追撃はしない。勿論、ここまで好き勝手吹っ掛けられたんだから、色々と要求はさせてもらうがな。でも、このまま皇獣が暴れ回れば、そんな相手もいなくなってしまう」

「裏切れというのか、騎士である私に主君を……ッ!」

「別に好きにすればいい。ただ俺だってあの出力の攻撃は、そう何発も防御出来ない。そうなったら、俺と聖剣を二刀流で構えてるウチの聖女以外は間違いなく死滅する。貴方も分かっているはずだ」


 敵であるかないか。

 正義か悪か。


 所詮しょせんは人の主観と時代の流れで決まるものあり、不変ではない。

 だから、大切なのは己の心で決めた道を貫くこと。

 譲れないものの為に戦うこと。


「どんな手品で生き残ったか知らないがァ! フィンッ! 貴様も死ねぇ!」

「私はッ! 民を……将兵を……守るッ!」


 叫ぶ皇帝。皇獣が白き炎を撒き散らす。

 だがフィンは立ち上がり、再び迫り来る白灼越しに自らの皇帝へと刃を向けた。


「了解……話の分かりそうな奴がいて何よりだ」


 対する俺は、ここまでの戦闘で散々吸収した魔力を剣に纏わせて大刃として顕現けんげん。天頂まで届かんばかりに巨大化した“レーヴァテイン”で白灼を斬り裂く。


「な……またッ!?」


 自分の思う通りに行かないのが余程悔しかったのか、アレクサンドリアンは癇癪かんしゃくを起こす。

 そんな皇帝を尻目に、今の衝撃で周囲に散らばった魔力残滓を“叛逆眼カルネージ・リベルタ”で再吸収。身体能力へのブーストを最大まで引き上げると共に、体力までも全回復させる。


「細かい処理はまた後だ。ひとまず、そこで呆けている勇者の家族の身柄と安全確保をだけは約束して欲しい」

「無論だ。勇者頼りだった我らが言えることではないが、こちらとしても彼女を戦場に駆り立てるのは本意ではなかったし、このようなやり方を承諾しょうだくしたおぼえもない。何より……彼女は乙女だ」

「そうか、なら安心した。何のうれいもなく、奴を斬れる」


 ニヴルヘイムが一枚岩ではないように、アースガルズとて同様。

 打ち気にはやる皇帝たちを、どこか冷めた目で見ていたこの男なら少しはマシだろうという予想は的中していたということ。


「はッ!? 人間の出来損ない……家族にすら見放されたゴミ虫が、神にも等しい我が力に叛逆するというのか? とんだ笑い種だなァ! フハハハハハッッ!!!! ハハハハ……ハ、ハハ、ハ、ハ……ふざけるなぁァァ!! 絶対に殺す! 貴様だけは四肢を引き千切った後、家畜の餌にして惨たらしく殺してやる!!!!」

「片手をどこかに落っことしてきた奴が言うと説得力が増すな」

「ええ、ですが……頭の中身もどこかに落として来たようですね」

「黙れ、貴様ら! 余を侮辱するなァ!」


 俺は神話の魔剣――“レーヴァテイン”を手に魔力を極限まで吸収した全開状態。

 セラは自身の“グラム”とアイリスの“プルトガング”の聖剣二刀流。


 相手が世界で一番偉い相手でも、かつて封印された神話の化け物であろうと退くつもりはない。


「あの……」


 そんな時、蚊帳かやの外になりかけていたアイリスが俺たちのそばに寄って来る。


「アイリス?」

「……私も戦う! いや、戦わせてほしいの」

「本気か? アレでも一応、お前のところの皇帝だぞ?」

「これは人を殺す戦いじゃない。命を護る為の闘い。それに自分の家族は……自分で護らないと……」


 そんなアイリスが向けて来る瞳には、これまでの彼女にはない強い想いが内包されていた。成り行きではなく、自分の意思で戦うという強い想いが――。


「――分かりました。貴女を信じましょう」

「セラ……?」

「どの道、戦力が多いに越したことはない。それに私たちが撃ち漏らした攻撃を処理し、援護してくれるというのなら心強い味方となる。彼女もやられっぱなしでは、収まらないでしょうしね」

「えっと、その……ありがとう」

「いえ、この剣は貴女のモノ。私はそう思っただけです」


 “プルトガング”の返還へんかん

 それは正しく敵同士が手を取り合う呉越同舟ごえつどうしゅうとも言うべき光景。


「ゆ、勇者様……!」

「くそっ! 死ぬよりはマシか!」


 すると、残った一部の敵将も立ち上がり、武器の切っ先を自国の皇帝に向け始める。


「貴様らまで余を裏切るというのか!? この愚か者共め!!」

「最初に裏切ったのは貴方だ! 兵士の命をかえりみない作戦! さっきだって偶然攻撃を防がれてなきゃ、俺たちは皆死んでたんだ!」

「黙れ! 黙れ! 王の為に庶民が尽くすのは当然のことなのだ! そんな目で余を見るなァ!!」


 白灼が天をき焦がし、周囲を一掃せんばかりに凄まじい熱量で迫り来る。


「確かに王の為に庶民が尽くすのは当然のことではありますが……。だからと言って、己が欲望を満たす暴虐が肯定こうていされる理由にはならないッ!」

「貴方が求めたのは、聖剣を扱える・・・・・・私だけ……。他の人もそう……自分の思う通り動かない人間は要らなくて、意のままに操る為には何でもするなんて……ッ!」


 二振りの聖剣が煌めく。

 銀と金の斬撃が交差し、白灼を四散させる。


小賢こざかしい奴らめ!」

「自分の主観が神に等しいとでも思ってる下種野郎よりはマシだろうさ」

「な……背後から!? 飛べェっ!」


 黒翼の機動力をもって、攻撃の衝突を目くらましに背後から迫る俺だったが、漆黒の剣はその切っ先を白亜の鱗に掠らせるのみに留まった。

 巨体は更に空へ舞い上がっていく。


「これが天から告げる神の裁き! 最後の闘いだァ!」


 皇獣を打倒できれば、俺たちの勝利。

 押し切られれば、俺たちの敗け。


 実にシンプルで分かりやすい。

 アレクサンドリアンが言う通り、これが最後の闘いだった。

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