悪役令嬢の涙。好きな人を守るのためならば、私は悪役でも構いません。
美杉。節約令嬢、書籍化進行中
第1話 自らが望んだ断罪
「もうこれ以上、君の
ああ、ここまで来るのに、本当に長かった。あなたとの婚約破棄を手に入れるために、私は……。やや冷たくなった秋の風が髪を揺らした。熱く、そして痛む胸が、この風によってほんの少しだけ落ち着く気がする。私は断罪に泣きそうになるのを、ぐっと堪えた。
そう、これは私が望んだこと。そして私が仕向けたことだ。だから最後まで、悪役令嬢という役をやり切らなければいけない。
「君がした、リーリエへの数々の嫌がらせ。もう隠し通せるものではないんだぞ」
「カイル様……」
私は誰よりも好きで好きで仕方のない、婚約者の名を呼ぶ。彼の横には親友だったリーリエがいた。長いハニーブロンドの髪に、青い瞳、薄紅色の唇。細い腕をカイルに絡ませ、瞳には涙を貯めている。その細くか弱いリーリエにしなだれかかられれば、落ちない者などどこにいるだろうか。女の私から見ても、彼女は完璧な令嬢であり、なにより美しい。
「リーリエがいけませんのよ。私の、カイル様に近づくから」
それに比べて私はどうなのだろう。同じ侯爵令嬢であるにも関わらす、私はリーリエとは全く違う。髪もややグレーがかった水色の髪に、青い瞳、そして少し日に焼けてしまった肌。本来ならば学園であっても侍女を連れて来ることが出来る。身の回りの世話をさせるためだ。しかし私にはそれはいない。身の回りの世話は全て、平民の子たちと同じで自分でしなければいけない。そのために髪にはあまり艶はなく、手もリーリエのような白魚の手とは無縁だ。
でも別にだからといって、この生活が気に食わないわけではない。むしろ、誰にも気を遣わなくてもいい。それは居場所のない私にとって、なにより有り難かったから。
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