大河小説「銀河」

チェシャ猫亭

プロローグなのだ

 猫田柳之介ねこたりゅうのすけ、65歳。

 長年、プロ作家になりたいと思い続けてきた彼は、いまだに小説らしきものを書けていない。

 シニア創作サークルの世話人・堀に励まされ、やっとのことで、へたくそポエムを数編とエッセイをひとつ書いたが、以後は停滞中。

 そんな柳之介には野望があった。

 長編小説を書きたいのである。一作でいいから死ぬまでに長い小説を書いてみたい。

 非常識な話である。

 大胆不敵、怖いもの知らずの向こう見ず!

 おそらく、そんな風に言われ、笑われるのだろう。せいぜい500字程度のエッセイを書いたのみの彼が、いったいどうやって長編小説を書こうというのか。

 しかし柳之介は、今度こそ本気だ。先日までは一日中苦しんでも「今日も小説が書けなかった」という一行日記しか書けなかったのだ。詩とエッセイを書けただけでも大進歩ではないか。


 堀は、学ぶとは真似ぶこと、つまりマネをすることだと教えてくれた。よそ様の小説を、大いに学ばせていただこう。

 まずは形から入ってみるか。

 リサーチの結果、長編にはプロローグが必要らしいと判った。大長編には、必ずプロローグが存在する。

 試しに、何本かの小説に目を通したが、別にプロローグじゃなくて第1話として通用しそうなものも多い。

 どうもよくわからない。

 大体、自分はどんな小説が書きたいのか。

 長編、というだけでは書き出せないよなあ。

 そうだ、タイトルを決めてしまおう。タイトルが話を導き出してくれるかもしれない。

 長いと聞いて真っ先に浮かぶのは、あれだ、大河ドラマ。1年かけて戦国武将などの一生を描き出す壮大な物語。あんなのが書けたら最高なんだが。

 とはいうものの、柳之介は、1年通して大河ドラマを見たことはない。でも「大河という響きは魅力的だ。

「大河小説」という言葉にはスケール感がある。どう考えても長編だ、500字ということはありえない。そんなことは子供でもわかる。

「大河小説 500字」なんてものがあったらブーイングの嵐だ、誰も読んでくれない。手っ取り早くていい、と読んでくれる人はゼロではないかもしれないが。

「大河小説 あらすじ」はどうだろう?

 長編のあらすじを500字程度にまとめる。どんなに壮大なストーリーでも、その文字数なら読みやすいし、書きやすい?

 でも、その壮大なあらすじを考えるのが大変なのだ。


 まじでどうしよう、タイトル。

「大河小説」は絶対入れたい。

 そのうえで、どでかい感じの何かをつなげる。

「銀河」にしようかな。

「大河小説 銀河」、いいかもしれない。


 今日はこのへんにしておこう。

 柳之介は、満足してPCを閉じだ。


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