大河小説「銀河」
チェシャ猫亭
プロローグなのだ
長年、プロ作家になりたいと思い続けてきた彼は、いまだに小説らしきものを書けていない。
シニア創作サークルの世話人・堀に励まされ、やっとのことで、へたくそポエムを数編とエッセイをひとつ書いたが、以後は停滞中。
そんな柳之介には野望があった。
長編小説を書きたいのである。一作でいいから死ぬまでに長い小説を書いてみたい。
非常識な話である。
大胆不敵、怖いもの知らずの向こう見ず!
おそらく、そんな風に言われ、笑われるのだろう。せいぜい500字程度のエッセイを書いたのみの彼が、いったいどうやって長編小説を書こうというのか。
しかし柳之介は、今度こそ本気だ。先日までは一日中苦しんでも「今日も小説が書けなかった」という一行日記しか書けなかったのだ。詩とエッセイを書けただけでも大進歩ではないか。
堀は、学ぶとは真似ぶこと、つまりマネをすることだと教えてくれた。よそ様の小説を、大いに学ばせていただこう。
まずは形から入ってみるか。
リサーチの結果、長編にはプロローグが必要らしいと判った。大長編には、必ずプロローグが存在する。
試しに、何本かの小説に目を通したが、別にプロローグじゃなくて第1話として通用しそうなものも多い。
どうもよくわからない。
大体、自分はどんな小説が書きたいのか。
長編、というだけでは書き出せないよなあ。
そうだ、タイトルを決めてしまおう。タイトルが話を導き出してくれるかもしれない。
長いと聞いて真っ先に浮かぶのは、あれだ、大河ドラマ。1年かけて戦国武将などの一生を描き出す壮大な物語。あんなのが書けたら最高なんだが。
とはいうものの、柳之介は、1年通して大河ドラマを見たことはない。でも「大河という響きは魅力的だ。
「大河小説」という言葉にはスケール感がある。どう考えても長編だ、500字ということはありえない。そんなことは子供でもわかる。
「大河小説 500字」なんてものがあったらブーイングの嵐だ、誰も読んでくれない。手っ取り早くていい、と読んでくれる人はゼロではないかもしれないが。
「大河小説 あらすじ」はどうだろう?
長編のあらすじを500字程度にまとめる。どんなに壮大なストーリーでも、その文字数なら読みやすいし、書きやすい?
でも、その壮大なあらすじを考えるのが大変なのだ。
まじでどうしよう、タイトル。
「大河小説」は絶対入れたい。
そのうえで、どでかい感じの何かをつなげる。
「銀河」にしようかな。
「大河小説 銀河」、いいかもしれない。
今日はこのへんにしておこう。
柳之介は、満足してPCを閉じだ。
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