20《夢か女か》

 ここは、願望の宝玉が創りし世界。辺りには、暖かな光が差している。


 クライスは気を失い、その光に包まれ宙を漂っていた。


 すると、どこからともなく女性の声が聞こえてくる。



 『--あなたのその望みを叶えましょう。ですがそれが叶った暁には、その代わりの物をもらい受けます--』



 そう告げるとその謎の声は、クライスをどこかに転移させた。__




 __ここは、願望の宝玉が創り出したクライスの思い描く世界。


 クライスは目を覚ますと辺りを見回した。


(ん? なんでこんなとこにいる! 確かアイツらとこの国をでたはず。それなのに、どうなってるんだ)


 そう思い首を傾げる。



 そう現在クライスが立っている場所とは、ダインヘルム国にあるムウル闘技場の入場門付近だ。



 クライスは、なぜここにいるのか不思議に思いながら自分の身なりをみる。


「……」


(おい!? なんで、国で使っていた装備に変わってるんだ!

 それに、ここは闘技場。いや待て。その前に、確か洞窟にいたはず。ん〜夢でもみてるのか?)


 そう思い自分の左手の甲を思いっきりつねってみた。


「イデェェーー!!」


 余りの痛さに大声で叫んだ。


(夢じゃない。じゃ、今までリュー達と旅をしたこと自体が夢だったのか? だが、そうだとしても変だ)


 そうこう考えるも納得がいかず、余計に分からなくなりイライラし始める。


「あー分からねぇぇ〜!!!」


 そして頭をかきむしり大声で叫んだ。


 そう思い悩んでいるとクライスの背後から、コツコツと通路を歩く足音が聞こえてくる。


「クライス。何を騒いでいる。まさか怖気付いたのではないだろうな?」


 そう声をかけられクライスは振り返った。するとそこには、クライスの父親のナファスが立っている。


「父上!? これはどういう事なんですか? それに、なんで俺は闘技場に」


「うむ。これはどうしたものか。もしや余りにもあり得ない快挙を成し遂げ、ここまで勝ち上がってきたために頭が混乱しておるのか?」


 そう言われるもクライスは、ナファスが言っている事が理解できずにいる。


「快挙? 勝ち上がる? ま、まさか!? これから行われようとしているのって。決勝って事はないですよね?」


 一瞬そう考えたあと、まさかと思いナファスに問いかけた。


「その通りだ。だがクライス、どうしたのだ? 今日のおまえは、すこしおかしいぞ」


「決勝戦、誰と誰の。って、まさか俺なんですか?」


 まさかと思いクライスは、自分を指差し聞きかえす。


「ああ、そうだ」


「それじゃ、この先にリューセイがいるんですね」


 リューセイと正式に剣を交えることが出来ると思い、クライスは喜び笑みを浮かべる。


「何を言っている! やはり、今日のおまえは変だ。あの者たちは既に、」


 ナファスは、険しい顔になり何があったのかを話し始めた。


「ちょ、待ってください!? それって。じゃ俺は、みんなを見捨てて国に戻ったと言うんですか!」


「いや、おまえは彼らを見捨てたわけではない」


「ですが! 今の話を聞く限り。アイツらが魔物に襲われているというのに助けることもできず。自分だけが生き残り国に戻ってきてしまった」


 クライスは頭を抱え、項垂れるように座り込んだ。


「おまえが悪いわけではない。それに、今更それを悔いても仕方がないだろう。さぁ、そろそろ決勝戦が始まる。クライス期待しているからな!」


 そう言いナファスは客席へと向かった。


(どうなってる? 俺が生き残り、リュー達がやられたっていうのか? だが、もしそうだとしてもだ。

 あの三人はともかく。俺よりも強いリューが、そう簡単にくたばったなんて信じられん。なんか変だ。どうもしっくりこない。

 それに今から決勝って、いきなりすぎねぇか? それに記憶がないっていうのもなぁ)


 そう思いながらクライスは、この先にある試合会場に視線を向ける。そして、試合会場へと歩き出した。


 すると観客席から「わぁー」と歓声が湧き、クライスは周囲を見渡してみる。


(んー何か違う。確かに、強くなって称号を得たいと思っていた。

 だが、こんな形じゃなく。あくまで、リューセイに勝つという前提でだ。だが、今ここには)



 『欲するままに。さぁ、それを手にするのです!』



 謎の声はそう言い誘導するも、その声はクライスには聞こえていない。


 だがクライスの体が、自分の意思とは関係なく動き出した。


「これは!?」


 なんで体が勝手に動くのかと不思議に思いながら、必死で自分を制御しようとする。


(クッ、やはりな)


 そう思うも既に対戦相手の前まで来ていた。


 対戦相手はクライスをみるなり眉をひそめる。


「クライス。私を待たせるとは、どういう料簡だ! それとも、怖気付いたのか?」


 そう言われクライスは、対戦相手の方を向いたと同時に驚いた。そうそこには、桃色のグラデーションで銀髪の美しい女剣士が立っていたからである。


「女? ていうか、おまえは誰だ! なぜ名前を知っている?」


「はあ? 何わけの分からないことを。確かに会うのは初めてだが、今日の試合はみせてもらった。おまえは確かに強い。だが私が勝つ!」


 そう言い女剣士は剣を抜き刃先をクライスに向ける。


 だがクライスは眉をピクッとさせるも動じなかった。


「うむ、なるほどな。もしこれが夢だとしても。この好機を逃すわけにはいかんだろう」


「フッ、やっと、やる気になってくれたようね!」


 女剣士はそう言い剣を持ち直し身構える。そして開始の合図を待った。


「いや、君と戦うつもりはない」


「戦うつもりがない? 何を言っているの」


 そう問いかけられクライスは、女剣士の方へと歩みよる。そして目を輝かせながら、女剣士の手を握りあり得ない言葉を発した。


「言葉の通りだ。どんな状況であっても、女を傷付けるつもりはない。それに、美しい君には華やかなドレスの方が似合うはずだ」


 そう言うとクライスは女剣士の手の甲にキスをする。


 そう昔から美しくて気の強い女性を好きになる傾向があり、自分の目の前の女性もそうだったからだ。


 女剣士は、ぼうぜんとしその場にたたずむ。だがすぐに我にかえり、クライスを払うと後退りする。


 クライスは女剣士の方へ近づこうとした。


「ちょ、ちょっと待て。おまえ、ふざけているのか?」


「いや俺は、本気だ!」


 クライスは女剣士の手を取ろうとする。だが女剣士は、ビクッとし後ろの方に逃げた。



 するとこの世界の空間のどこかで、「ピキッ!」と音がして徐々に亀裂が入り始める。



 その後クライスは、女剣士を口説き落とそうとひたすら追いかけた。片や女剣士は、半泣き状態で逃げる。



『これはどういうこと? あの者の願望は、優勝し称号を得ることのはず。ですが、亀裂が入ってしまいました。考えている余裕はなさそうですね』


 謎の声は、この空間を維持することが困難になり術を解き姿を消した。



 その後女剣士が姿を消すと、この世界は崩壊し始める。


「うわぁぁぁ〜!? なんなんだぁ〜!」


 そしてクライスは、この場からもとの場所へと飛ばされたのだった。

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