7《イシスの厄日》

 イシスは体格のいい男をにらみ詰め寄った。


「すみませんが、私のどこが女性だと?」


 そう言いイシスはすごむが、話し方と表情が柔らか過ぎてその男に通用しない。


 そしてその男は首をかしげる。


「女じゃねぇって、どういう事だ! まさか男なのか? だとしても、女にしか見えねぇ」


「……。ハァ、もういいです」


 そう言われイシスは、怒るというよりも逆に落ち込んだ。


 それを見ていたリューセイ達は、さすがに耐えられなくなり腹を抱え笑いだす。


「ぷはっ! なるほど。俺たちは、昔っから一緒だったから、なんとも思ってなかったが。確かに、言われなきゃ女だと思うかもな」


 そう言いながらクライスは、イシスから視線を逸らした。


「そんなに笑わなくても。ふぅ、もういいです! 私は宿に戻りますので」


 イシスはここにいるのが嫌になり扉のほうへと歩きだす。


 それを見て即座にその体格のいい男は、イシスを追い近くまでくると左手をつかんだ。


「おい! 待て」


 イシスはいきなり手を握られ驚き振り向いた。


「な、何するんですか!?」


 そして、何をするんだと言わんばかりにその男を凝視する。


 その様子を見ていた四人はまずいと思う。だが、三人はその様子を見ているだけで、リューセイだけが行動に移しイシスのほうに向かおうとした。


 それと同時にクライスは、リューセイの行く手を阻んだ。


「リュー、待て!」


「離せ! このままじゃイシスが」


 クライスの体をつかみ「どけ!」と言い、思いっきり力を込め跳ね除けようとする。


 するとクライスは、リューセイの両腕をつかみ自分から引き離した。


「まぁ待て。ああ見えて一応アイツも男だ。それにイシスはそれ程ヤワじゃない」


「確かにそうかもしれない。だけど、」


 そうリューセイは言いかける。


「クライスの言う通り。僕も大丈夫だと思うよ」


 ユリエスはリューセイを見て、ニコニコと笑いながらそう言った。


「そうだな。アイツはあんな感じだけど。怒らせると、うるさいくらいに口が達者だしなぁ」


 このあとどうなるのかと思いながらアベルディオは、イシスと体格のいい男のほうを見ている。


「まぁ確かに、そうかもな。だが、まずいと思ったら、」


 リューセイがそう言うと三人は、うなずきイシスのほうに視線を向けた。


 一方イシスは、その体格のいい男に手を握られ嫌な顔をする。


 首をかしげながら体格のいい男は、イシスの顔をマジマジとみた。


「んー、なるほどなぁ。だが、男にしておくにはもったいない容姿にいい声をしていやがる」


 そう言うとイシスの品定めを始める。


「ほほう。それにだ! 見た限りだと、温室育ちのようだが。おまえ、どこぞの御曹司か?」


 そう言われイシスは一瞬ビクッとした。


「い、いえ。とんでもありません。そんな大層な身分では、」


「いやいや。そうでなければ、これほど、高貴なオーラを持つ者などいない!」


 イシスはそう言われ困惑する。


「ですが、」


「あっ、なるほど! そういう事か」


 何を思ったのかその男は勝手に納得した。


「あ、あのですねぇ。何を納得されたのかは分かりませんが」


「いやいや、皆まで言わなくても。おそらくは、隠さなきゃならねぇ事情があるんだろう。そうでなきゃ、あんなお供を連れてはいないはず」


 イシスはそう言われ、どう答えたらいいかと悩んだ。と同時に、なぜかとてつもなく嫌な視線を感じリューセイ達のほうをみる。


 すると四人は、イシスのほうをにらみ顔を引きつらせていた。


(これはかなり、四人とも怒ってますね。どうしましょう? あの様子ではアベルディオが一番、怒っているようです。

 どうにかしないと、大変な事が起きる予感がしてきました。さてどうしたら、)


 そう思い『よし』とうなずき、体格のいい男をみる。


 そしてイシスは、真顔になり話し始めた。

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