居場所のない俺が居場所を見つけた話

TATIBANA

第1話 居場所を失くした彼は………

俺は橘透。高1で一人暮らしをしている。俺には昔から居場所がなかった。家族からは除け者にされ、付き合えば直ぐに別れを告げられる。居場所を求めるのももう辞めた。居場所なんて最初から俺にはなかったのだから。しかし姉さんは違った。俺を一番に考えてくれていた姉さん。それが俺の居場所だった。でも姉さんは病気で長くなかった。そして俺が14の誕生日に死んだ。それからは何もかもどうでも良くなった。そして高校に入るのだが、俺は学校でも特段目立つことをしなかったし誰かと話すこともしなかった。斑での活動やペアワークは適当にやったり言われたことを一方的に伝えて終わらしていた。正直人と関わるとろくな事にはならない。だから俺は周りを拒絶するようになった。しかしその生活が一変することになる。そう、アイツと出会うことで。


俺はいつものように朝飯を食べて高校の制服に着替えていた。今日は終業式だ。

(コレでしばらく人といなくて良くなるのはありがたいな……)

俺はそう思いながら着替えを終え外に出る。外はすっかり雪が積もっていた。それも当然だ。もう12月。冬の真っ最中だ。俺はバス停に向かって歩き出す。俺が通う高校は高校までの直通バスがありかなり良い高校だ。俺はその高校を受験試験オール満点で学費免除を受けている。そこは深原高校。超難関名門校として知られている高校に1次試験オール満点という成績を取ったことによりバスを使えていた。このバスは成績が優秀な場合と、学費免除を受けている者しか乗れない仕組みになっていた。だから俺はこうして乗っていられる。15分もすると高校に着いた。バスを降り裏門をくぐり、二階に上がり、教室に入る。そして自分の席に座り本を読む。その本とは俺の唯一の居場所でいてくれた姉さんが残した本だ。その本とは姉さんが小説コンテストに出そうとして作っていた小説だ。その小説を俺の誕生日にくれた。四作品の小説はそれぞれ『紫青』『紫黄』『紫黒』『紫緑』と題名が付けられていた。しかも一つ一つのページ数は三千を超えている。だからこそ俺はコレを一日一日、ゆっくりと読んだいた。姉さんの生きた証である小説を。

俺が読み出そうとした瞬間教室の扉が開き名前を呼ばれた。

「橘透くんとはいったい誰だ!」

なんと扉を開けて立っていたのは3年の先輩の七咲志織だった。

「橘は俺ですけど…………」

「ほう、君が橘透か。私と来い」

「なぜですか?」

「来てもらわなくちゃ行けない理由が私にはあるからよ」

「俺にはありません。第一俺は読書に忙しいので却下です」

「こちらこそ却下よ。さぁ!早く来なさい!」

俺は手を引かれ無理やり連れて行かれた。そして向かうのは屋上だった。


「屋上に俺を連れてきて何の用ですか?」

俺は先輩を見据えながら問いただす。答えは直ぐにやってきた。言葉としてでなく行為として。俺は先輩に押し倒されていた。押し倒されると言うよりは壁に背中をつく形で地面に座らされたと言う方が正しいかもしれない。

「なんの真似ですか?」

「ふふ。君からは何も感じないの」

「何が言いたいんですか?」

「そうね〜。君からは楽しいとか嬉しいとか疲れたとかしんどいとかを感じないの。好きとか嫌いとかも含めて。でも大切はあるから不思議よね」

「何なんですか?」

「私はななsa」

「七咲志織先輩。知っていますよ。IQ200の天才お嬢様。スポーツも得意で何をやらせても失敗しない完璧人間」

「よ、よく知ってるわね。君」

「先輩は有名ですよ。良い意味でも悪い意味でもね」

そう。七咲先輩はあまりにも非の打ち所がなさすぎて周りからは避けられ、いじめられ、大変だと噂だった。

「あ、そうなの〜?ふぅん。私ってそんなに有名なんだ」

「なんでご自分のことを知らなんですか?」

「私は自分に興味がないもの。与えられた物は何でもできる。そんな私には興味を持つのも無駄なこと」

七咲先輩は自分にとことん興味がないらしい。だからこそ自分が罵られようが、いじめられようが、避けられようが気にしないのだろう。

「で、何の用なんですか?」

「あ、そうだったわね。私は君に興味が湧いたの。橘透くんにね」

「俺に、ですか?」

「そうだよ橘くん!私は君から何も感じないことが気になる」

「なんでですか?」

「私は人の居場所になりたいの」

「!?………………どういう意味ですか、ソレ」

「私は自分の家では用意された物、用意させる物、全て思うままだった。だからこそ自分には良くも悪くも居場所が用意されていた。でもそうじゃない人を知りたかった。居場所を失くした人を知ってもっと人と関わりたい。だから君に興味があるの」

「自分の価値観押し付けて楽しいんですか?そう言うの辞めてください。俺には何もないんです。居場所なんていらないし欲しいとも思いません。居場所なんて俺には最初からないんです」

「そんなことない!居場所は見つけようとしないと………!」

「あ、訂正しておきましょう。居場所はありました。しかしもう俺には居場所と呼べる所も存在も何もありません。今更求めようともしていません。失礼します」

そう言って俺は七咲先輩をどかし屋上を出て行った。

(もっと人を知りたい…………か。その後はどうでもいいってことですよね、先輩)

俺はそんなことを思いながら教室に戻り自分の席に着く。俺にはもう何もない。『居場所』それは俺が一番欲しかった存在だった。誰か一人から必要とされ誰か一人を幸せにできればいいと思っていた。しかし四回も信じて付き合った人に裏切られた。一人目は付き合っていると思っていたのは俺だけ。都合のいい時だけ彼女ずらして来る。二人目は興味もないのに口説いてきた。三人目は俺に愛想を尽かした。いや理由を付けて俺から離れていった。四人目は親に許されなかったらしい。それでも約束した。しかしその『いつか』は訪れないことを知った。それこそが一番の居場所になってくれていた姉さんの死。それを境に俺は人と関わることを辞めて、今までの辛い過去と嫌な思い出に鍵をかけて『約束』も『恋しさ』も『好き』も封印した。たった一つの居場所を失くした俺が心の拠り所として選んだ小説と共に姉さんと過ごした家を出ていった。それからは使われていなかった叔母の家に住んでいた。何も考えたくなくなって捨てた俺が今更居場所を求めるのは違うことだった。


そして授業の始まりを告げるチャイムがなる。

俺は授業を聞きながら窓の外に視線を向けていた。

(姉さん。元気にしてるかな)

俺はもういない姉さんについ話そうとしてしまう。姉さんだけが救いだったから。俺は姉さんを忘れられないのかもしれない。姉さんしかなかった俺だからこそ忘れられないのかもしれない。姉さんはいないのについいるかのように話してしまう。

(姉さん。また会えるといいね………いうかそっちに行くよ、俺)


午前の授業は終わり昼休みに入る。昼休みになると俺は自分の席に座り自作した弁当をたべ始める。スマホで好きなアーティストや推しの声優が歌っている曲を聞きながら一人で。するとそこにはアイツが来た。そう七咲先輩だ。

「橘くん!会いに来たわよ」

「来なくていいんで帰ってください」

「冷たいことを言うじゃないか橘くん」

「別に当たり前のことを言ってるいるんです。先輩と関わると面倒なことしか起きなさそうなので」

「なんでそんなこと言うのさ〜!」

「とりあえず帰ってください。昼の邪魔です」

「ええ〜!酷いな〜。レディの誘いを断るなんて〜」

「誘われてないし断るもありません」

「あ、そっか。なら知ったら断らずに来てくれるんだ」

「誰もそんなこと言ってません」

「え〜いいじゃない!」

「嫌です」

「お願い!橘くんくらいしか頼めないの!」

「なんで俺なんですか?」

「内容!聞いてくれるの?!」

「はぁ……………。ここじゃアレなんで屋上行きましょ先輩」

「うん!」

屋上に向かい俺は先輩の話を聞く。

「はぁ?!男女割引??」

「そう!男女で入ると六割引きなの!」

「なんでそんな………」

「お願い!このとーり」

「…………………………」

「駄目?」

「今回だけです。今回付き合ったらもう付きまとわないって約束してくれるなら別に構いません」

このとき付きまとわれなくなるなら一回くらいどうってことないと思った。

「ほんと?!」

「今回だけですよ」

「もちろん!じゃ!放課後に教室で待っててね!」

「分かりました」

そう約束をした直後昼休み終了を告げるチャイムがなり俺と七咲先輩はそれぞれ教室に帰っていった。

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