第31話「ドワーフ来襲 上」
例の如く、ティナは問題を大事にしてくれた。
ドワーフ達も、ティナの挑発によって、顔を鬼瓦のように変貌させようとしていた。このままではいけない、そう思い俺は早速行動した。ティナを、落ち着かせるにはやはり、彼女に羞恥心を感じさせるのが一番である。
俺は、ティナの背後にそろりと近寄り、彼女に抱きつこうとした。その時、ティナの股下を通して、尻餅をついていた女の子と目が合った。俺はウィンクで、今から助けるからという念を送ったつもりだった。
しかし、俺の願いとは裏腹に、彼女は叫んでしまった。
「だめぇぇぇ!!」
それと同時に、俺は強い衝撃を自分の顔面に感じて、そのまま意識を失った。
次に、目を覚ました時はティナの膝枕の上だった。
そして、毛むくじゃらの髭面が三つと涙を浮かべた少女の顔が一つ、心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。
「目を覚ましたか」
ティナの声がまず聞こえた。その声色には、安堵の様子が感じられる柔らかいものだった。
「へっへっへー! どうやら大事なさそうじゃわい」
「よぉし、主役も目覚めたことだし、飲み直しといこう!」
「そうじゃな!」
おっさん達は、俺が目を覚ますや否や、酒盛りに戻り始めた。おーい、家主とわかってなお、一言も謝罪の言葉がないのか。マジかよ! この分だと火山でも噴火しない限り、このおっさん達は止められないんじゃないのか?!
それはさておき、意識を失う前の俺を襲った衝撃は一体、なんだったんだ。
「えっと、これは一体。確か、何かが俺の顔を殴り飛ばしたような……」
「本当に、ごめんなしゃい!!」
俺は、再度目から火花が散った。どうやら、背の低い彼女が深々とお辞儀をしたせいで、俺のおでこと少女のおでこがぶつかってしまったようだ。
「いててて」
「あぁ〜! 私ったら、またやらかしてしまいました。ごめんなさい、私ってほんとドジなんです」
少女は、全身から落ち込んでいる雰囲気を出していた。
「あ、あははは〜、分かったから落ち着いて〜じゃないと、俺の頭割れちゃうかも〜」
とんでもないドジっ子だな。
ふぅ、まだ少し目がチカチカする。それに、さっきから見えているティナのおっぱいがデカすぎる。こんなにデカかったか? ティナの顔が見えない。
「大丈夫か? ショウゴ//」
あ、見えた。彼女が、少し前屈みになって初めて、彼女の金色の瞳が顔を出した。
「うん、大丈夫。少し、クラクラするだけ。というか、この状況を説明してくれないだろうか」
「私がしてもいいですか? 私達が悪いので」
「うん、頼むよ」
「さっきは、ごめんさい。私がその、お姉ちゃんの背後にいた変なお兄ちゃんが、ショウゴお兄ちゃんだとは分からなかったから、咄嗟にお姉ちゃんを守ろうと思ったの。それで、私の飛び出すお手手で、お兄ちゃんの事を吹っ飛ばしちゃいました。ごめんなさい……」
そう説明してくれた少女は、自分の右手を着脱して見せてくれた。どうやら彼女の右手は、義手のようで、金属音を聞くところによると、金属で作られた精巧な義手のようだ。右手と腕はワイヤーのようなものでつながっていた。
そのついでに、彼女の容姿を観察した。彼女の背は本当に低く、キッチンの高さから頭一個分出てるぐらいで、人間で言えば歳も八歳から十歳と言ったところだろう。彼女は、紫色の髪を三つ編みツインテールにして、胸のあたりで切り揃えていた。
彼女の服装は、ブルーのオーバーオールと中には、暗めのカーキ色の作業服を着込んでいて、足の裾を捲っていた。彼女だけは、靴を脱いでいた。
この様子だと、いつもあのおっさん達に、この少女は振り回されているんだろうな。可哀想に。そう思うと、俺は彼女に少し同情心が芽生えて、怒りの感情があまり出てこなかった。
「合点がいったよ、まぁあんまり気にしないで。君は知らなかったことだったんだし、それにティナを守ろうとしてくれたんだから」
「そうだ、気にするな。元はと言えば、こいつがすけべなのが悪いんだ。これを機に、人前で下心はあまり出すものではないぞ、ショウゴ」
「あ……ははは、善処します。ていうか、ティナが事を荒立てなかったら、こんな事にはなってないんだよ!」
「むっ? 私が悪いのか?! 悪いのは、人の家に勝手に上り込んだ、ドワーフどもであろう!!」
「うっ。それはそう、なんだけど」
その通りだ。むしろティナは、侵入者を前に体を張って俺を守ろうとしてくれた。なんか、いつもと展開が違くて、調子が狂うな。俺の憤りを感じたのか、少女が慌てふためき始めてしまった。
「ほ、ほんとうに、ごめんなさい。ドワーフの間では、友達の家を訪ねて、友達が留守だったら、家に上がり込んで、待つのが普通だから。でも私はここは人間のお家だから、叔父さん達を一生懸命止めようとしたんですけど、リンランディアさんの紹介状があるからって、勝手に鍵を道具で開けちゃって、そのまま……」
やっぱり、彼女はその幼さで、あんなおっさんどものお守りをしていたのか。なんて健気な子なんや! この子は、何も悪くない。悪いのは、全部あのおっさん達や!! ドワーフだかなんだか、知らないがきっちり落とし前はつけて貰いますわ!
「君の名前は?」
「み、ミラって言います」
「そっか、ミラちゃんか。俺はショウゴ、こっちのお姉ちゃんがファウスティーナ」
「ティナと呼んでくれ」
ミラは、完全に落ち込んでいて、その大きな桑の実色の瞳には涙を浮かべていた。
「ショウゴお兄ちゃん、ティナお姉ちゃん! 本当に、ごめんなさい……ぅぅ、うわぁぁぁん!」
ミラちゃんは、俺たちの優しさが申し訳なくなってしまったのか。遂に、泣き出してしまった。そして、彼女に名前でお兄ちゃん呼びされた事によって、前世では一人っ子だった俺の保護欲を凄く刺激した。そしてその時、俺の中の歌舞伎町モードにまでスイッチが入ってしまった。
「ティナ」
「あぁ」
ティナの声色には、俺と同じような何か心の中で、奮い立っているような熱い熱気がこもっていた。俺とティナの思いは、一緒だろうと確信して俺たちは起き上がり、ダイニングへと向かった。ミラちゃんは、俺たちの顔色を見て泣き止むのをやめた。
子供ながら、これからドワーフのおっさん達に起きる悲劇を、その身で察したのであろう。少女は、そろりと立ち上がり、俺たちの動きを、その体ごと使って後を追った。最終的には、キッチンの台をその小さな両手で掴み、顎を乗せて生唾を飲んだのだ。
「お、叔父さん逃げてぇぇ」
彼女の小声は、キッチンの換気扇に消えていった。
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