ノスフェラトゥ・ウォーズ
飛辺基之(とべ もとゆき)
タブレットの中の戦争
二一世紀半ば、世界には先年から恐ろしい流行病が蔓延、人々は恐怖の中で過ごしていた。
年を越えて、少しは騒ぎは沈静化していたが、未だ脅威と騒がれている。その世相の中で、国内の分断という不気味な言葉も見え隠れしていた。
昨年末、高校生の巧は、半年遅れた高校の入学祝いであるタブレットを買ってもらいに携帯ショップを訪れていた。
両親とともに店員の説明を聞く。
「坊ちゃんのニーズは主に携帯小説を読めたり、アートを見たいんですよね。それで容量も大きく学校の勉強にも活用できる。するとこちらのタブレットは容量一〇テラ以上。お薦めです」
渡されたタブレットを手に取ってみた。これが僕のものになると考えるとワクワクする。即答で父に
「これ!」
と伝えた。
品は決まった。ちょっと面倒な初期設定の後退店し、この東北一の都会の中のファミレスで、家族揃って夕食を済ませた。大都会のはずのこの街が、病の蔓延ですごく寂しく感じられた。たぶん、この困難は平定されるのだろう。しかし、あまりに不安だ。暗い気持ちも幻だろうと目を見開けば、そこに重大な事態が発生しているのだ。幻と現実の境界線も混沌としているようだった。
帰宅は夜11時を回っていた。さっそく自室でタブレットを試運転する。
いい、最高の手応えだ。
巧はまず、高校の学習参考書の書店が開いている、学習アプリをインストールし、今月の小遣いの電子マネーで数学1の多項式の解説動画をダウンロードした。
教科書とその書店の参考書を開き、動画を見ながら降べきの順の整理とか、学んでいく。
すごい、動画でサクサク学んでいける。どんどん学習が進む。
最高の学習環境が整ったと思った。
そして理系かつ文系の巧は電子書籍アプリをダウンロードした。
早速パブリックドメインで出版されている海野十三全集を購入する。夢中で短編一つを読んだ。
すごい武器を手に入れたぞ。これで僕は様々な活動ができる。DTMのアプリまであるから作曲すらできる。このタブレットは僕の宝だ。
大満足の中で、眠気が襲ってきた。
「そろそろ寝るか」
そう思ったとき、タブレットの待受けに謎のショートカットがあるのに気付いた。
『ノスフェラトゥ戦線』
という名称のショートカット。
ゲームだろうか?巧は恐る恐るクリックした。サッと画面に文字が移った。
『ノスフェラトゥ戦線に支援を!』
『我々はあのノスフェラトゥの一党と戦っています!ノスフェラトゥは人類を滅亡させる恐ろしいヴァンパイアです!タブレットの前の貴方も一般兵士です。この戦いのために軍資金を送ってください!』
巧は驚いた。
とりあえず軍資金らしい。しかし高校生の巧の小遣いは限られている。ここは見なかったことにしようと思ったときだった。
『どうやって軍資金を?見ればいいんです。まずあなたのアバターを作ります。そして、表示される数々の広告を見る。広告一つにつき50トランシルヴァニアクレジットが付与されます。貴方のアバターはそのパワーでみなぎります。そしてそのクレジットパワーをノスフェラトゥのアバターにぶつけるのです!それで一体のノスフェラトゥアバターを倒せます!それだけで貴方は戦士なのです!』
巧はさっそくアバターを作る。
キャラを選んでいき、そして名前は……ワタルに決めた。さっそく広告を見続ける。
『世界の貧困を無くそう!』
『平等な社会を!』
『平和なエネルギー資源を!』
ワタルのアバターは光っていた。巧はすかさず『募金』のボタンを押した。ワタルのアバターからクレジットのエネルギー砲が発射される。
目の前にいたごっつい姿のノスフェラトゥアバターが一つ、悶絶して消えた。
『こちらはトランシルヴァニア司令部です。アバターワタルの主、巧。見事な戦いでした。この世界にアバターワタルを駆使した戦士「巧」が誕生したのです!トランシルヴァニアは祝福します!』
世界中の国々の、あらゆる人種からの祝福のメッセージが届いた。画面には拍手喝采と音楽が鳴り響いている。
こうしてバーチャル戦士「神楽坂巧」が誕生した。
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