41.真実へ


「おーい、生きてるかぁ?」


 俺は先ほどのボルとゲイルとの死闘で積もった、がれきの山を見上げてそう言う。

 恐らくこの辺に埋もれているはずだが……

 

 ――ガチャガチャ、ゴロゴロ


「ぐぅぅ……」


 がれきの最上段。

 ゴロゴロとがれきを落とし、ボルらしき人物が顔を見せる。


(お、良かった良かった。流石に死んではなかったな)


 その辺はあまり心配はしていなかったが、とりあえず無事そうで一安心。

 

 ボルはがれきの山からひょっこりと飛び降り、俺の目の前で着地する。


「おい、デス・ナガンあれはどうなった?」

「あそこで豪快に寝てるぞ」

「貴様の推測は正しかったようだな」

「お、なんだ? 俺を褒めてくれるのか?」

「調子に乗るな。後衛として戦況の判断をするのは当然の仕事だ」

「またまたぁ~素直に褒めておけばいいものを」

「黙れ。さっきの奴みたいにこの槍で貴様の腸を抉ってやろうか?」


 相変わらずの暴言返答。でも元気なようで何よりだ。

 こうは言ってるが、さすがにさっきの一撃は魔力を消耗しただろうからな。


「ほら、とりあえずこれを飲めよ」


 渡したのはどこにでも売っている市販のポーション。

 俺たちぐらいのレベルになると魔力回復には適さないが、疲労回復程度には役立つ。


 まぁ、お疲れさまって意味も込めてのことだ。


「ふん……」


 ボルは何も言わずにポーションを受け取り、一気に飲み干す。


「ふぅ……で、例の小娘たちは?」

「無事だよ。ほら」


 俺は二人のいる方向へと指を指す。

 どうやらメロディアの魔力が底をついたようで、クローレが看病をしている真っ最中だった。

 

 ま、自分の身の丈以上の魔力を宿したリフレクターを強引にこじ開けようとしたんだ。

 無理もない。


 だが問題はここからだ。


「おい、ボル」

「ああ……分かっている」


 俺たちがここに来ることを目指した理由。

 一つはメロディアたちの刻印の真実を探るため。

 そしてもう一つが俺たちの持つこの刻印を消す手がかりを探すためだ。


 二人には言っていなかったが、ここに来た時、刻印を宿している方の手が段々と熱くなっていることに気が付いた。

 

 メロディアたちの刻印があの神の眷属の復活によって呼応したのと同じように、俺たちにも同じ現象が起きていたのだ。

 そして今もその現象は続いている。


 やはりこの地に何らかの秘密が眠っているのは間違いないようだ。


 それに……


「その顔は何かを見つけましたって感じだな」

「ああ。さっき水晶玉例のあれが置かれていた場所のすぐ下に隠し階段があった。見たところ人が入った形跡はない」

「ってことは、さっきの奴らも認知していない場所ってわけか?」

「さぁな。だがこのガラス玉が戦闘中にその位置を教えてくれた。それっきり光ることすらなくなったがな」

「お、お前……いつの間に」


 ボルは懐から台座おかれていた水晶玉を取り出す。

 戦闘中って……いつ回収したんだよそれ。


「とりあえず、このガラス玉が指す場所に行ってみるしかない」

「それはそうだけど、二人はどうする? 特にメロディアは……」

「あの二人はここに残らせる。見たところ、二人の刻印は綺麗さっぱり消えているようだからな」

「えっ、マジ!?」


 俺はすぐに二人の方へと視線を合わせる。

 そして看病しているクローレの首元をじっと見つめると、


「本当だ。消えてる」


 首元にあったはずの刻印は完全に消えており、影も形も残っていなかった。

 メロディアはもちろん、意識のあるクローレもそのことには気が付いていないみたいだけど……


「じゃあ、本当にあの巨人を発動させるためだけのカギだったってわけか」

「そうなるな。あの男は長きに渡る研究を通してそこまでの真実にたどり着いたということだ。彼女たちはもしかしたらあの殺戮兵器を人界に呼びよせるための橋渡しとなる存在だったのかもしれないな」

「かもな……」


 だとしたら悲劇なもんだ。

 生まれついたその瞬間から、彼女たちは負の運命を背負っていたのだから。


 自分たちが生まれたせいで世界が滅ぶ。

 もちろん彼女たちは何も悪くはないのに。


 運命というものはいつだって皮肉なものだ。

 俺も過去を思い返せば、運命が決めたレール通りに歩んできただけなのかもしれない。


 賢者候補になったのも、もしかしたら予め決められていたことだったのかもしれないと、今日の出来事を見てそう思った。


「我は先に行くが、貴様はどうする?」

「行くに決まってんだろ。だけど、二人にはなんて言おうか……」

「何のことですか?」


「「……!?」」


 いつの間にかクローレが俺のすぐ背後に。

 なんとメロディアも目を離した隙に眠りから目を覚ましていた。


「お、お前らいつの間に……」

「気が付きませんでしたか? なんかコソコソ話してたみたいだから気配を消して近づいてみたんですよ」


 全く気が付かなかった。というか意識下になかった。


「それにしても、私たちに内緒で隠れ話は感心しませんね」

「そうですよ! コソコソ話は良くないです! あっ、ボルゼベータさんご無事で何よりです」


 なんかクローレが頬を膨らませながら怒っている。

 どうやら考える必要はなくなったようだ。


「ちっ、貴様がのろのろとしているからだ」

「はぁ? 俺のせいかよ!」


 ボルは盛大に舌打ちをかますと、隠し階段のある方向へさっさと歩いていってしまう。

 

(はぁ……まったくあいつは……)


 勝手すぎて溜息が出る。

 でも、確かに隠し事は良くないな。


 二人も此処に来るまでの間に色々と胸の内を語ってくれたんだし……


「二人とも、ちょっと一緒に来てくれるか?」

「もちろんです! ここまで来たらどこまでもついていきますよ」

「わたしもクロと同じ意見です。お二人にも成すべきことがあるんですよね?」

「なんだ、気づいていたのか?」

「わたしもとっくに気付いてますよ。お二人の手に例のあれがあることも」


 マジか……今までそんな素振り見せてなかったのに……


 恐らく気を遣ってそのことには触れなかったのだろう。

 なんてことだ、俺たちはこんな年端もいかない少女たちに気を遣われていたというのか。


 なんか数秒前の出来事を全て消し去りたいくらい恥ずかしい。

 でも、これで何も隠すことはなくなった。


 こうなったら二人にもとことん付き合ってもらうことにしよう。

 

 俺とボルの、俺たちの……最後の大冒険に。

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