40.決戦


「攻撃、来るぞ!」


 絶えず動く邪悪な巨物。

 俺たちもそれに合わせて攻撃を重ねていく。

 

「ちっ、なんて硬さなんだ」


 先ほどから数発、高位魔法を当ててはいるがビクともしていない。

 ボルも間合いを取りながら数撃くらわせているが、こちらも手応えがないようだった。


「ふはははははっ! そんなの効きませんよ。そう、デス・ナガンにはねっ!」

 

 高らかに笑い声を上げ、余裕綽綽なゲイル。

 メロディアたちを守りながら何とか戦えてはいるが、これではやられるのも時間の問題だった。


「くそっ、この封印さえなければあんな奴……」

「いや、封印が解けたとしてもギリギリ勝てるかだろう。腐ってもあれは元神の下僕だ。そう易々とはいかないだろう」

「ほう、珍しく弱気じゃないか」

「我は今の状況を的確に把握して判断を下しているまでだ。勝てないとは言っていない」

「どうだか」


 まだボルもかなり余裕はあるようだった。

 メロディアたちもまだ魔力は残っている。


 それまでにこいつを倒す手段を――


「はっ……!」

「どうした? 何か手段でも思いついたのか?」

「……ああ。俺の推測が正しければな」


 一つ思いついたこの状況を打破する策。

 俺はボルとメロディア、クローレにこの策を端的に説明する。


「……分かりました。何とか二人で頑張ってみます」

「私も、賛成です」

「……貴様の不明瞭な案に協力するのは不本意だが、まぁいいだろう」

「よし、じゃあ各々行動開始だ。二人は合図するまで待っていてくれ」

「「はい!」」


 俺たちは手筈通りに行動を開始。

 まずはデス・ナガンの注意を俺に向けるようにする。


「オラオラー! こっちだデカブツ野郎!」


 思惑通り、デス・ナガンは俺を標的に設定。

 怒涛の攻撃を繰り出してくる。


「ほう、何か策でも思いついたのでしょうかね」


 ゲイルは安全圏から俺と巨物の戦闘を見守る。


(よしよし、いいぞ。奴らの意識が完全に俺の方に向いている)


 ここまで作戦通り。

 後はボルが上手くやってくれれば――


「……≪ファイア・ドレイク/練磨なる炎≫、バースト!」


 炎属性の連撃魔法を放ち、牽制。

 何とかボルの立ち回りを快適にしようと試みる。


 だがふとボルの方を見てみると、もうその必要はない様子。

 完全に標的を捉え、槍を構えていた。


(頃合いだな……)


 ゲイルと巨物のボルへの意識は完全にない。

 一発くらわせるのならば……ここしかないっ!


「……今だボル! やれ!」


 叫ぶ先に竜人族あり。

 奴らの意識がボルへ傾いた時にはもう遅かった。


 ボルはその相棒である槍を構え、今か今かと待ちわびていたとも言える一撃をゲイルに向ける。


「なっ……!」

 

 動こうとした時にはもうボルの攻撃範囲。

 俺たちは初めからこれを狙っていた。


 なぜならば――


「もし仮にデス・ナガンあれを使役しているのがお前ならば、無理に倒す必要なんてない。そう、お前さえ倒せれば、使役する者はいなくなり、奴は止まるからだっ!」

「き、貴様ら……初めからをこれを狙っていたのか!」

「真っ向から勝負するのは今の状態じゃちと歩が悪いんでな。頭(ここ)、使わせてもらったぜ」

「ざ、ザコ共がっ……!」

 

 策は完全にハマった。

 あとはボルが奴を――


「さらばだ。眷属を操りし者よ」


 ボルの一槍はゲイルめがけて飛んでいく。

 俯き、諦めるような素振りを見せるゲイルだった。


 が――


「と、なーんてね。発動せよ≪ゴッド・リフレクター/神の盾≫

「……ッ!」


 ボルの槍がゲイルを突き刺そうとした瞬間、それを弾くように防御魔法が発動。

 その痛烈な一撃は魔法壁へと吸い込まれていく。


「ふっ、甘いのはお前だよ」

「……なに?」


 そうさ、これこそ俺が思っていた通りの光景。

 そして完全に俺の予想が当たった瞬間だった。


 俺はすぐに背後で杖を構えるメロディアたちに指示をする。


「今だ、メロディア、クローレ!」


 メロディアは自身の持つロッドを地に立てて、詠唱を開始。

 それを支えるようにクローレがメロディアと共にロッドを持つ。


「行くよ、クロ!」

「うん!」


 ――世に蔓延る聖なる光の加護よ。我にその力の一片を授け、悪を貫く糧となれ


「「≪アンチ・リクレクト/壁を壊す者≫!!」」


 二人の魔力を結集させたその魔法は一直線にゲイルの元へ。

 そしてじわじわとゲイルの張った魔法壁を削り、ボルの槍が食い込んでいく。


「くそっ、アンチマジックか!」


 慌てふためくゲイル。

 今度は何も策はないようで、先ほどのような余裕はもうなかった。


「今度こそ、終わりだ。ボル!」

「貴様に言われなくても分かっている! はぁぁぁぁっ!!」


 ギアを二段階、三段階と上げ、ボルの勢いは止まらない。

 そして完全に魔法壁が削られ、成すすべ無しとなったゲイルの腹部をボルの聖槍が貫く。


「ぐはっっっ!」


 血反吐を吐き散らし、ボルの槍が完全に貫通する。

 そしてそのまま奥の壁に向かってゲイル諸共突進していく。


「……ここまでだ。安らかに眠れ」

「ぐぅっ……ば、バカな。この私が……!」


 決着。

 ゲイルはそのまま壁に叩きつけられ、絶死する。


 そしてその瞬間、さっきまで勢いのあったデス・ナガンの機能が停止。

 その巨体をぐらつかせると、そのまま前方へと豪快に倒れていった。

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