34.休息2


「きたー!」

「この都にこんなところがあったなんて……」


 異様にテンションが高いクローレと豪勢な建物を前に立ち竦むメロディア。

 普段なら立場は逆なはずなのに今日だけは違った。


「ここがクロの言っていた温泉施設か」

「はい! ここは様々なお風呂があって一日じゃまわりきれないくらいなんです!」


 熱く語るクローレ。そして俺の隣ではボルが顰めっ面をしながら立っていた。


「ちっ、何故我がこんなところに」

「いいって言ったのお前だろ。たまにはいいじゃないか」

「ちっ」


 別に心から嫌がっているわけじゃなさそう。ボルが本気で嫌がっているときの拒絶反応は色々な意味でヤバいからな。場合によっちゃあ殺意剥き出しで襲ってくることもある。


(だかそう考えるとクローレは凄いな)


 何せこのボルと普通に会話を交わすことができるのだから。

 ボルもクローレには心を開いているような感じがするし……


「ボルさーん、レギルスさーん、早く行きましょー!」


 気がつけばもう施設の入り口に移動している二人。

 昨日まで床に寝ていた少女が今は楽しそうな笑みを浮かべていると思うと少しホッとする。


「だってよ。行こうぜボル」

「ちっ、これで最後だからな」

「はいはい」


 俺たちも後を追うようにして二人の元へと歩いていく。


 ♦


 ―――ザンバード国家機密保安局


「六星魔術団がやられたか。無能な奴らめ」

「まぁ所詮は二流魔術師たちの寄せ集め。捨て駒ですよ」

「しかしそうはいってもが六星魔術団を圧倒できるとは思わないのだが?」

「その通りだ。あのバルターが小娘二人に劣るとは思えん」

「その点に関してはもう情報は得ています。諜報兵の話によれば姫殿らのすぐそばには二人の男がいたとか」

「それは本当か?」

「はい。そして先ほど別の諜報兵によって彼女らがゼヴァンの街にいるところを発見したとのことです」

「ならばまとめてかたをつけるには絶好の機会だということか。おいゲイル、お前のとこの部隊は出せないのか?」


 ゲイルと呼ばれた男は「はぁ」と溜息をつく。

 そして嫌そうに横目で呼んだ男を見ながら、


「副局長、お言葉ですが私の部隊は害虫駆除のための部隊じゃないんですが」

「口を慎めゲイル、これは立派な任務だぞ! しかもこの計画については国王陛下が直々に我々へと依頼してきたいわば国家レベルの機密事項だ。ここまで言えばさすがに分かるよな?」


 圧をかけ、じっとゲイルを見つめる副局長と呼ばれる男。

 周りの幹部団の視線も皆、ゲイルの方へと向いていた。


 そしてその様子を一通り見たゲイルは、


「……はぁ。わかりました、私の部隊をお貸ししましょう」

「よろしい、ならば早速作戦へと入る。言っておくがバルターの失態によって国王陛下は少々機嫌を損ねているみたいだ。もし仮に失敗して帰ってこれたとしてもゲイル、お前の立場は……」

「分かっていますよ、だからこその私なのでしょう?」

「ふむ、よく分かっているではないか。頼むぞ」

「承知致しました。陛下の命通り、必ずや成功させて見せます」


 そういうとゲイルはその場を去り、レギルスたちを排除するために行動を開始する。


 ♦


 ――ゼヴァン共用大型大浴場


「ほー、広いな」

「見ているだけで嫌気がさす光景だ。こんなところのどこが良いのだ」

「俺もこういうところには初めて来たから良く分からん。でも……」


 俺はボルを、正式にはボルの水着姿を見て笑いをこらえるのに必死だった。

 なんてったって、


「おいレギルス、貴様さっきから何を笑っている? とうとう頭のネジが全部取れたか?」

「い、いや……そうじゃなくてだな」


 お前の水着に笑っているんだよ。なんだよ、その前後ろ一枚の葉っぱだけで構築された露出度マックスの水着は! というかこれは水着と呼んでいいのだろうか?


(端から見ればただの露出狂だ。できればあまり近くにはいたくないレベル)


「お前はなんでそんな水着にしたんだ? てかよくあったなそんな水着」


 不信感を募らせているみたいだったので正直に思ったことを指摘する。

 するとボルは真剣な表情をしながら、


「これは水着などいう低俗なものではない。かつての竜神が水浴びのために生み出したとされる神々

の衣装。我が竜人族では天覇の衣と呼んでいる」

「そ、そんなに神聖なものなのか?」

「当たり前だ。神々を祭る儀式の際も供え物として献上しなければならないものだ。もしこの姿を見て愚弄の笑いを飛ばしていたのなら……」

「い、いやいやそんなわけないじゃないか! 実にクールだぞ、その姿!」


 なんかごめん。


 そう心で言いつつも俺とボルは女性陣の到着を待つ。

 すると、


「レギルスさーん、ボルさーん!」


 背後から聞こえる二人の少女の声。

 俺とボルは後ろを振り向く。


「お、おぉ……二人とも似合っているな!」

「そ、そうですか?」

「そんなことないですよぉ」


 まずはメロディアの水着を拝見。

 彼女はその豊満なカラダをフルに生かした三角ビキニだった。容姿スタイル共に抜群なメロディアには女性の色気とやらを全開に出せるぴったりの水着だと言える。


 対するクローレはその控えめなボディを優しく包みこむようなタンクトップ型のビキニ。これはこれでまた別の意味の可愛さがあってクールなクローレにはぴったりの水着だと言えるだろう。


 二人はそこまで自信があるような感じではないっぽいが相当レベルが高い。

 特にメロディアの着ている水着をメリッサさんに着させて――


「レ・ギ・ル・スさん? なにクローレの方ばかりじっと見ているんですか?」

「えっ? いやそんなことはないが……」

「いいえ、ばっちり見てましたよ。そんなにクローレの身体がいいんですか?」

「か、かかか身体がいい!?」

「おい、止めろクローレ。誤解を招いているぞ」


 いや、まぁ正直に言えばちょっとだけ見入ってしまいましたけども。

 別にやらしい意味じゃない、うん。


 否定する俺の顔をじっと見つめるクローレは「ふぅ」っと一息つき、


「まぁそこまで否定するなら信じます。では、早速行きましょう! おすすめの場所があるんです!」

「あ、ちょっと待ってクロ~」


 一人早歩きで行くクローレに追いかけるメロディア。

 子供のようにはしゃぐ二人を見るとなんだか羨ましく思えてくる。


(子供のようにはしゃげた時なんて一ミリもなかったからな)


 過去の出来事を掘り下げれば掘り下げるほど悪いことしか出てこない。

 でも今は昔と比べたらかなりマシな人生を歩んでいると思う。


 ボルも前よりかは柔軟になった気がするし。


「……貴様はさっきからなにを見ている? あまり見るな、汚れる」

「はぁ? お前それはないだろう」


 ま、口答えや言葉遣いに関してはまだ改善の余地ありだけど。

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