16.潜入


「いや……でも気になるな」


 俺は部屋に戻る途中、ふとこう思った。

 あのボルが俺以外の者と一対一(サシ)で何かを話すなんて滅多にあり得ない。その辺に転がっている希少鉱石(レアメタル)を探すより希少(レア)な出来事だ。

 

「ちょっとくらい覗き見しても……」


 このちょっとくらいいいだろう的な悪い精神が働き、再度書庫前の扉まで戻ってくる。


「えっとまずは……」


≪アナライザー/分析師≫


 結界がないかを確認するべく分析魔法を発動。張っていないか辺り一帯を確認する。


「結界はないようだな……」


 確認完了。次のステップへと移る。


「透明化の魔法と五感無効の魔法も発動しておこう」


≪ステルス/透明化≫

≪アンチセンス/五感無効≫


 同時に二つの魔法を行使。これでようやく潜入準備は完了した。


「―――さて、いくか」


 ゆっくりと扉を開扉させ、音を立てないよう中へと入る。

 

(確かあの二人はこっちの方に……)


 自身の勘を頼りにどんどん奥へと進んでいく。

 

「それにしても改めて見ると迫力が半端ないな」


 大量の本による圧を感じる。天井の高さギリギリまである見上げる程の書架に数多もの本が綺麗に陳列されている。

 内容も小説や文献、学術書などジャンルも多岐に渡っていた。


「ボルにしてみれば天国だろうなここは……」

 

 前にボルが数週間もの間、姿を見せず困っていた時期もあったがこれを見て納得した。


(そりゃここから出たくはないよな)


 そう思いながらも書架と書架に挟まれた道を進んでいく。

 すると、


「むむ、あれはなんだ?」


 進んでいった先に見えたのは一つの小さな扉。そのすぐ近くには暗号入力式のパネルがあった。

 条件は4桁の数字。0~9までの数字で組み合わせる。

 

「暗号(コード)か……いきなり難解だな」


 だがここで諦める俺ではない。


「―――大体こういうのは……」


 ピピピっと思い当たった数字を入力していく。

 すると暗号入力式のロックが解除され、少しずつ扉が開いていく。


「おいおい、マジかよ。ホントに開いちゃったよ」


 まさかの予感が的中してしまい、身を引いてしまう。

 中は暗闇の空間が続いており、見えるのは下まで続く階段のみ。


「ゴクリ……」


 思わず息を呑む。

 だがここまで来て引き下がるわけにもいかない。


「よし……行こう」


≪ダークビジョン/暗視化≫


 視覚強化の魔法を発動させ、暗闇に続く階段を一段一段降りていく。

 

「てか暗証番号が自分の誕生日って……あいつそういう所は分かりやすいんだよなぁ」


 暗証番号は0401。そしてボルの誕生日は4月1日だ。

 考えるのが面倒だからって理由だろうけど……


(暗証番号くらいはきちんと考えろよ)


 難解であるはずのポイントを軽々と抜け、先を急ぐ。

 だが降りても降りてもひたすら階段が続くのみだった。

 

「この階段一体どこまで……ん?」


 あまりにも長い道のりに苦言を漏らしていたその時、一筋の光が目に飛び込んでくる。


「―――あれは部屋か?……」


 その光に近づいていくにつれ、一つの小さな扉が目に入る。

 光の正体はその部屋から漏れていた照明の光だった。


(ここがゴールなのか?)


 恐る恐る部屋の前まで近づく。

 すると……


「……よしやるぞクローレ」

「は、はい。お願いします」


 声が聞こえてくる。間違いない、この声はボルとクローレだ。

 

(俺の勘は正しかったようだな)


 俺は二人に足音を聞かれないよう、細心の注意を払いながら扉の前にしゃがむ。

 扉はほんの少しだけ開いており、そこから照明の光が漏れていた。

 

「何の話をしているんだ?」

 

 まずは耳を澄ませ、会話の内容を聞こうと試みる。

 だが二人の会話は突然聞こえなくなり、ただギシギシと何かが揺れる音だけが聞こえてきた。


「―――ん~? あいつら何をやっているんだ?」


 気になりさらに扉の方へと近づいていく。

 やはり会話が聞こえてくることはない。聞き取れるのはギシギシという謎の音だけ。

 

(気になる……)


 元々覗く気はなく、二人の会話だけを聞くつもりでいたのだが予定変更。

 ちょうど中の様子が見える隙間もあったことから俺はチラッとだけ覗くことに。


「―――二人には悪いけど……」

 

 物音を立てないよう扉の隙間に片目を当てる。

 そして少々緊張しながらもそっと中を覗くと……


(う、嘘だろ……)


 つい声に出して言いそうになってしまった。

 それもそのはず、俺が見た光景は自身の予想を遥かに超えたものだった。

 そして思わず見入ってしまう。


 上裸のボルと下着姿のクローレがベッドの上で何かをしているという異様な光景を。

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