徴税艦隊(タックスフォース)!~天駆ける徴税吏員達~

山﨑 孝明

プロローグ


 初期の地球帝国において、国家機構とは地球と月、火星のみを統治できれば十分なものだった。しかし、超光速航法の現実化、すなわち超空間潜行技術の実用化に伴い、人類の生活圏は爆発的に拡大し、やがて太陽系から半径一万光年を版図とするに至ったと同時に、既存の中央集権体制での国家運営の限界を察した帝国中央政府は、各有力惑星系に帝国皇帝となるべき資格を保持する皇統貴族を領主とする領邦国家を設置した。


 さらに、独立独歩の機運著しい植民惑星においては、領邦国家としての地位を渇望し、帝国中央政府への嘆願は爆発的な数となっていた。これら全てに皇統貴族を置くことは現実的ではなく、また高度な自治権は帝国からの分離独立を促すことを危惧した帝国中央政府は領邦国家からワンランク下の自治共和国としての地位を与えた。


 ともかく、これら帝国中央政府に依存しない星系が増えることは、それ自体が帝国中央政府にとって、自らの存在意義を揺るがすものとなったのである。ここで帝国中央政府が、領邦国家と自治共和国の支配システムとして築き上げてきたのが現在の税制となっている。

 

 帝国税制は、帝政布告以前に存在していた地球統一政体である地球連邦のものを引き継いだものとなっていて、財務省の内局である税務局がその管轄を行っていたが、帝国の規模の拡大に伴い国税総局、さらに国税庁と改組が行なわれた。


 しかし、収税と予算編成を同一省庁で行うということは、財務省による帝国政府の支配を推し進めることとなったのは自明の理であり、経済の停滞、そして有形無形の内政干渉をもたらす結果となった。

 

 特に、帝国暦三二一年に発生した帝国最大の内乱と言われるマルティフローラ大公国をはじめとした領邦と帝国本国の戦いは、元を正せば財務省による領邦国家への不透明な徴税権行使や、領邦国家や自治星系への分配金を使った内政干渉など、財務省の際限ない権限拡大が遠因となっていた。


 事実を重く見た当時の皇帝ジブリールⅠ世は、財務省による収税権の行使と、予算編成が同一になっていることが原因と判断し、財務省の外局であった国税庁を国税省とし、省に格上げして権限を拡大した上で財務省からの切り離しを命じた。


 それと同時に領邦軍等による収税権の侵害を危惧した結果として、国税省内部で浮上したのは、自らの警護部隊を組織することだった。


 結果として、領邦国家による国税省への干渉、特に武力介入からの警護を目的とした外局として【特別徴税局】が設置された。


 現在に至るまでに【特別徴税局】は独自に武装艦隊を所有し、その編成について国税省はおろか、内務省や国防省さえも関与できない独自の権限を有している。特に設立以降、歴代局長中最悪かつ最凶と名高い永田閃十郎により大幅な人員、武装の拡充がなされ、国税当局施設の警護のみならず、武装した滞納者などへの強制執行をも担当している。その荒事専門の性質から彼らは【徴税艦隊タックス・フォース】と仇名されることになったのである。


 ――アウル・ゲルミル・サコミズ著『特別徴税局-その特殊性と役割-(トーポリ書籍)』より抜粋。

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