共犯

屑木 夢平

第1話

 きっとぼくを見つけ出してください。そう書き残していなくなった彼のことを、あなたはいまも探し続けている。


「幻のような魂を持った人なの。まばたきした瞬間に、立ち消えてしまいそうな」


 彼について話すとき、あなたはいつも目を伏せて幻という言葉を用いる。そのため彼にまつわる話を聞く人はみな、まるで本当は存在していないか、あるいは存在していても目に見えないものについて説明されているような錯覚に陥ってしまう。ただ、それはあなたの話しかたのせいでもある。あなたは決して物事の核心に触れない。その口から紡ぎ出される言葉はいつも曖昧さの膜に包まれ、どれだけ耳を澄まして傾聴したとしても、明確な意味を持つ音として響くことはほとんどない。そのことがあなたと、あなたの話に登場する彼の印象をぼかしてしまう。


 あなたと彼、二人だけの世界があるのだとあなたは言った。あなたと彼にしか認識できず、ほかの誰にも侵すことのできない半形而上の世界にあなたがたは暮らしているのだと。講義中の大教室で、昼時の食堂で、大勢の人々で賑わう大通りで、あなたが彼を見つけて視線を送るとき、彼もまたあなたに気づいて波長の長い眼差しを向けるのだ。そうやって互いを容易に発見できるのは、やはりそこにあなたがただけの世界が存在するからに違いない。


「それでも、わたしと彼は結ばれない運命にあるの」


 あなたはひどく思い詰めた顔をして言った。これまでに起こったことと、これから起こるであろうことすべてに対する絶望が、暗い影となってあなたの病的に白い頬に差している。けれども、あなたはその絶望を拒絶しないどころか、むしろ愛おしいとさえ感じている。

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