第4章 疾走

第22話 走り出す

そして僕らは、夜通しホテルの一室で、夢に向かうための作戦会議をした。


只々、考えなしに突っ走るだけでは多分また折れかねないと思ったからだ。 本当にそれを掴みに行くなら、しっかりとした道筋を立てていくのが大事だと僕らは考えた。


・・・・もう、色々と僕は失敗できない年齢になってはいるし。



そして、僕らは次の事を決めた。


・勝負の期間はこの夏から来年の春まで。 短期決戦。


・最初の二か月でとにかくボイストレーニングと練習をキッチリ詰めて、感覚を取り戻す。


・後の三~四か月で自分の特性が最大に生かせそうなオーディションに絞って参戦する。


・これでどこにも引っかからなかったら、とりあえずどこかしらに就職をして、しながら目指すことにする。


この四つの方針の元、僕は再び夢を目指すことにした。


夜が明けて、日が昇り、僕らは一旦自宅に戻って体制を整えることにした。


とわを一旦森之宮神社に返した後、僕も一旦自宅へ戻り、少しずつ準備を始めた。


あの日以来ずっと段ボール箱の中に入れて封印していた、ボイトレの教材や、歌唱関連の教材を取り出した。 正直少し前まで、もう使わないから古本屋に投げてやろうか、なって考えていたくらいだったけれど、まさかこうして日の目を見る日が来るなんて、自分でも思わなかった。


これもまた、何かの運命なのかもしれない。

「しかし、昔の僕はよくこんな膨大な本やテキストやら教材をこなしてたもんだな・・・はえええ・・・できるかなあ・・・。」


テキストのページをぺらぺらとめくって、流し見しながら、僕は大学時代の自分の姿をなぞった。


沢山の要点を書き込んで、沢山の付箋を貼って、ページの端がヨレヨレになるほど読み込んだ、かつてのアツかった頃の僕。 触れているだけでも、なんだかタイムトリップしたような感覚に陥った。


あの頃のアツさに触れて、雰囲気に触れて、なんだか僕の心は少しずつ熱を帯びてきた。


待ってろよ、あの頃の僕。一度灯は消えかけたけれど、今再び燃え始めたぞ。大人の僕だって、君には負けないよ! 君の夢はもう一度、僕が叶えてみせる!



「っっっっっっっっしゃあああ!! やったるぞおおおおお!!!」


威勢をつけて、僕はテキストを読みちぎり始めた。


――――――――――――そして僕は次の日、寝不足でバテた。


気は若いままだったけど、やはり身体は追いついてこなかったらしい。


そしてこの日から、とわは僕のマネージャーとして、二人三脚で、僕の夢を目指すサポートをしてくれることになったのだ。 僕が毎日、森之宮神社と自宅を往復して、彼女を送り迎えして行う形になった。



・・・・もっとも、この日は思いきり寝坊をブチかましたわけなのだが。


「このバカチンがああああああ!!!! 一日目から寝坊する奴がおるかああ!!!」



「悪かったって、とわ。夜明けくらいまで必死になってテキストやらなんやら読んでたら、気づいたら朝になってたんだって!」


「大人ならその辺節度を持ってやらんかい!!」


全くその通りである。 我ながら大人らしくないことをしてしまった感はある。


「・・・・でも、それくらい熱を持ってやることはいいことよ。今日みたいになるのは勘弁だけど、これからは気を付ける事ね・・・・もっとも、今日から私が管理してあげるから、そうはさせないけれどね。」


ドヤっとした顔でウインクをして、彼女は答えた。


・・・・正直ちょっとの不安はあるが、僕より云百年は長く生きて、それにあの大きな神社を管理してきてたんだから、多分大丈夫だろう・・・多分。


色々とガックガクな状態ではあったが、こうして僕たちの二人三脚の日々は始まった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る