第2章 君の記憶を辿りに
第5話 旅の始まり
そして僕たち二人はそのまま、日本中を巡るあてもない旅に出た。
・・・・とはいえ、一度衣料と通帳なんかを取りにいく為に自宅には一瞬寄ったが。
本当にあてもなく、なんの予定もなしに出かけたもんだから、僕はまずどこに行こうか思いあぐねていたのだが、結局最初に向かったのは少し離れた郊外のショッピングモールだった。
理由はいくつかある。 これから長旅に出ることを見越して、車に食料やその他日用品を積んでおきたいのでその買い出しをしておきたいのが一つ。 そしてもう一つの理由は、殆ど云百年前の文化で価値観が止まったままのとわに、現代の文化とは如何様なものなのかを知ってもらおう、という意図があってのものだ。
最新鋭の食品から日用品、そしてファッションから娯楽まで揃うショッピングモールなら、そこで一日を過ごすだけで、彼女に今の文化を知ってもらえる、という算段なわけだ。
というわけで、早速クルマを一時間ほど走らせ、郊外にあるショッピングモールに着いたのだが・・・・
「うおおお!?!?!? すごい! これが『すかぁと』というやつか! それにこっちの服も、羽織ものも・・・・ いいなあ! 楽しいなあ!!」
・・・・どうやら、想像以上に楽しんでいるようだった。 不死身でずっと生きている彼女だが、このように森の中で文明社会から引き離された、言わば浮世離れした生活を送っていた彼女にとっては、非常に新鮮なものに映っているらしい。
「もしよかったら、なんか衣料とか買ってやろうか? そこそこ長旅になるだろうし、着替えは多い方がいいだろ?」
「いやあ、でも凛歌に迷惑をかけるわけには・・・・それに、これはきっと値が張るものでしょう? 流石にそこまで迷惑は・・・・」
「いやいや、いいよ。 僕貯金してばっかで、お金ロクに使ってなくてさ。 実は結構余裕あるのよ。 なんか気に入ったやつあったら声かけてよ」
うん、わかった・・・・ と彼女は答えると、お店の中にある衣類をくまなく真剣に見始めた。 彼女は暫く吟味したのち、これがいい、と一つのワンピース風のセットアップ衣料を持ってきた。
セットアップを一つ持っていれば、そのままはもちろん、時折別のトップスやスカートとも入れ替えてコーディネートもできるし、何かと潰しが効く。 中々いいチョイスだ。
「それが、いいのかい?」
そう聞くと、彼女は静かにコクンと頷いた。 少し下に俯いていたから、あまり顔はよく見えなかったけれど、少しだけ口元が緩んでいるのが見えた気がする。
「よし、じゃあ、それ買ってくか!」
というわけで、店でとわの服を買っていった後、今度は別のフロアで食品、日用品をザっと購入し、その後フードコートで食事を取ることにした。
フードコートに来るや否や、とわは
「なあなあ! 今の世は『なたでここ』なるものが流行りなんでしょう? 森に捨てられてた雑誌で見たぞ! どこにそれが売ってるんだ?」
「いや、とわさんね、残念だけど、ナタデココが流行ってたのは三十年くらい前の事でしてね・・・・今はタピオカってのが流行ってるんだ。 ・・・・あ、そう言えば、向こうのデザート屋さんなら、両方とも食べられるから、とわはそこにするか?」
「うん! 両方食べれるなら、そこがいい!」
というわけで、とわはフードコートにあるデザート屋さんのタピオカドリンクとナタデココのデザート、僕自身は某ハンバーガーチェーンのハンバーガーセットにした。
「「いただきます!」」
二人で元気よくそう言うと、それぞれの料理に手を付けた。
包みをササっと開き、ハンバーガーをついばむ。ふんわりしたバンズに、ケチャップで味付けられたハンバーグ。 大味と言えば、大味だけれど、いつ食べても思わず「うまっ」となってしまうわかりやすいおいしさが心地よかった。
そう言えば、こうして外食をするのはいつ以来だろうか。 ・・・・暫く考えこんでも頭に浮かんでこないから、まあそれくらいには前の事なんだろう。
近頃だと、食事なんてこんなゆっくりとることもなかったし、こんな味わって、ゆっくり考え事をしながら・・・・なんてこともなかった。
食事って、こんなゆったりしたものなんだな・・・・
「なあなあ、この『たぴおか』ってやつ、カエルの卵みたいな見た目なのにもちもちして美味しい! それに、この『なたでここ』ってのもツルツルしてて美味い! この時代の食事は本当に上手いものだらけなのね!!」
いや、撤回。やたら賑やかだわ。
「そうか、そうか。 喜んでくれたようで何より。 お代わりしたかったら、遠慮せずに言いな」
「本当!? じゃあ、このたぴおかどりんくと、なたでここを味違いのやつが食べたい!!」
そう彼女がいうので、僕は応じるがままに彼女にタピオカドリンクと、ナタデココのデザートを食べさせた。
・・・・その後レシートを見て、思わずギョッとしたのはここだけの話。
食事が終わった後、お腹がいっぱいになって眠くなったとわを先に車に戻らせて、ゆっくり休ませている最中に、僕はもう一つお店に寄っていた。
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