君に捧ぐ永遠の唄

須田凛音

プロローグ

「それでは、白瀬さん。スタンバイの方よろしくお願いします。」

はい、と静かに答えて僕は控室を後にする。 やっと掴んだ夢の舞台への花道。踏みしめるようにしてグングンと廊下を歩いていく。




僕は小さい頃から歌う事が大好きだった。優しい言葉を、猛々しい言葉を、そして美しい言葉を。旋律に乗せて、精いっぱいの思いを込め、紡ぎ出し、この世の誰かに届ける。こんなに素晴らしい事が他にあるだろうか。 歌う事を僕は何よりも愛して生きてきた。そして今度は、もっと極めてもっと沢山の人々に届ける事が出来ないかと思った。だから僕は沢山のチャンスを探りに探って、もがいて、掴み取りに行くことにした。そして、その挑戦を見事にモノにすることができた。



かくして僕は夢だった歌手になることができ、大好きな歌をみんなに届ける事ができるようになったわけなのだが、実は今日の舞台は大好きな歌をたった一人の大切な人のために捧げることにしていた。



その人は、荒んで萎れかかり、歌う事への情熱を失いかけていた僕にもう一度灯を灯してくれたのだ。そして僕の支えとなり、時に𠮟り、傍にいてくれていた。 そして、誰よりも僕の歌を愛していてくれた。今日はそんな人に届けるために最高の舞台と、最高のコンディションを整えてきた。もう不安な事なんてない。後は思いきりやり遂げるのみだ。


 精いっぱい届けるぞ!


思いきり叫んで、胸をトントンと叩きながら、スタジオのステージに続く階段を一気に駆け上がっていく。


大切な貴方のために。もう暫くずっと眠ったままの貴方のために。今、僕は歌います。


眩いスポットライトの光が、ジリジリと熱を伝えながら、どんどんと僕に近づいてきた。 

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