銀翼の探究者

demekin

第1話

此処にはどれだけ沢山の、先祖達が残した記録が収められているのだろうか? 壁一面に作られた棚にずらりと並ぶ書物を見ながら、カーネリアは、書物を残した先祖達に思いを馳せながら、目当ての書物を探していた。紙の端に穴を開けて紐で閉じただけの書物は、どれも似たような形をしていて、いつも探すのに苦労する。カーネリアは、時々この図書室の窓の外を見ながら目当ての本を探していた。窓の外に見えるのはとてつもない大きさ樹木が鬱蒼と茂る森、樹海の景色だ。そして樹海の上にあるのは、青と水色と白が微妙な縞模様を描いているこの世界独特の空が広がっている。さらにその空には、惑星ピティスと二つの月が浮かんでいた。このアゲイトと呼ばれる世界は、この世界に現れる五つの月と共に、ビティスの周囲を回っているのだ。そしてアゲイトの大小様々な鳥が飛ぶ空には、時々ひときわ大きく背中に椅子の様な形をした騎乗具を着け、その上に人間を乗せた銀色の鳥が姿を現した。銀色の羽毛と尾の付け根から伸びている金色の飾り羽根、そして頭には朱色の冠毛を持った巨鳥ベヌゥ……カーネリア達、樹海の鳥使いを乗せて樹海の空を飛び回る、鳥使いのパートナーだ。この村に住む鳥使い達はこの巨鳥に乗って樹海中を飛び回り、樹海の恵みである薬草や鉱物などを採集して樹海周辺部と隣接するの町と交易し、生活している。午後のこの時間は、朝一番に仕事に出掛けた鳥使い達が村に帰ってくる時間だ。日が暮れてしまう前に、目当ての本を見付けてしまおう。

「もしかしたら、この辺にあるかも知れませんよ。古い時代の記録は、この棚に集めて置いていますから」

窓から光と、天井や壁に埋め込まれた光を放つ石の明かりの中、目を凝らして目当ての本を探すカーネリアに、横から図書室係のオロベェルディが声を掛けて来た。やたら背が高く顔も細長い、長いローブを来た年配の女性だ。

「ほら此処には、樹海周辺部の町の多くを巻き込んだ争いの記憶があります。かなり古い記録ですよ」

オロベェルディは棚に手を伸ばすと、古びた本を取り出し、中を開けてカーネリアに見せる。なるほど古い記録だ。今使われている文字とは少し違う古い文字で、十世代以上も前に起こった争いの様子が描かれている。

「ほら、古いでしょ。所々に今は使われない言葉が出て来る」

オロベェルディは、本の文字を目で追うカーネリアに話し掛けて来る。

「有難う。でもこれは私が探している記録とは違うの」

カーネリアは本の文章を読むのを止めると、本をオロベェルディに返す。

「まさか、もっと古い記録を探しているとでもいうの?」

呆れた顔をするオロベェルディに、カーネリアはそうだと言うように頷く。

「それ以上古い記録は、数えるほどしかないですよ。この村を作ったと言われる先祖ハリの記録と、そのころ起こった幾つかの事件の記録ぐらいしかありません」

オロベィルディが驚くのももっともだ。村の人間でこんな古い記録に興味を持つ者はいないと言っていいのだから。

「私は私達の先祖ハリ自身が書いたものを調べたいの。彼女が樹海に入る前に、何をしていたかをね」

「待ってくださいよ。そこまで古い記録はここには無いですよ」

カーネリアが探しているのが、この村が誕生する以前の記録だと知って、オロベェルディの様子は呆れから困惑へと変化した。両手を大げさに振りながら、そんな記録は無いと言い続けている。

「ハリ自身が書いたものはここにはありません。ハリが村から姿を消す前に、樹海の何処かへと隠されてしまったんです」

ハリ自身が書いた記録を探すのを諦めさせようとして、オロベェルディはカーネリアが聞いたことの無い話しをし始めた。

「代々図書室係を務める者に伝えられている話しですよ。私も前任者のアンバーから聞きました。ハリが自ら自分が書いた記録を隠したのだと……」

ハリ自身が自分の書いた記録を隠したとは、初めて聞く話しだった。でも何故ハリはそんな事をしたのだろうか?

「何故、大事な記録をわざわざ樹海にかくしたのかしら」

「解りません。後の記録には、ハリが自分の記録を持ち出して樹海の何処かに隠したとしか、書かれていないんです。その時のハリの行動と持ち出された記憶の行方は、まったくの謎です」

もうこれ以上、何かを聞き出すのは無理だろう。懸命に村の図書室にはカーネリアが探している記録が無いのを訴えるオロベィルディを見て、カーネリアはハリが書いた記録を探すのを諦めた。今日一日、わざわざ本来の仕事を休んで古い記録を探し回ったと言うのに。それにしても村で最も古いであろう記録が、樹海の何処かに持って行かれたとは……樹海の何処を探せばいいと言うのだろうか。村の図書室で探すのは、諦めたほうが良いのかも知れない。

「有難う、オロベィルディ。私はベヌゥ達の離着陸場にいくから。見張りに出た鳥使い達が帰ってきたら、ハリが書いて記録が無かった事を早く伝えたいから」

「解りました。また何か調べたい事があったら、遠慮なく図書室を利用してくださいよ。じぁあ、また」

本棚から離れるカーネリアに型どおりの挨拶をすると、オロベィルディは床に積まれたままにされている本を空いた棚に並べは始めた。カーネリアの訪問で中断させられていた仕事の続きをし始めたのだ。もとの仕事に戻ったオロベィルディを残して、カーネリアは扉を開けて図書室を出ると、図書室の外にある階段を昇って行く。光を放つ石に照らされた岩の階段を昇り、階段と階段を繋ぐ通路を通って行くと、大きな洞窟の奥に出で来る。仕事から帰って来た鳥使いとベヌゥ達が、暫し身を休める洞窟だ。洞窟の中では、一足早く仕事から帰って来た、緑色の騎乗服を着た鳥使い達が、騎乗具を外したベヌゥ達の身体を布で拭いている。そして一通り身体を拭いてもらったベヌゥ達は自由になり、洞窟の床に敷き詰めた葉っぱの上で休むか、樹海に食事に行くかをするのだ。樹海へカーネリアはベヌゥの世話をする鳥使い達と会釈をかわしながら洞窟の外へと向かう。

 広い洞窟の出入り口の向こうには、鳥使いの村のある山の中腹に作られたベヌゥの離着陸場が広がっている。山の中腹に棚の様に作られた大きな広場、それが銀色の巨鳥、ベヌゥの離着陸場だ。カーネリアは離着陸場に出ると、まず自分のパートナーのベヌゥ、ブルージョンを呼ぶ。

「ブルージョン」

空を見上げてパートナーのベヌゥの名前を呼ぶと、深緑で餌を啄んでいたブルージョンが空に姿を現し、離着陸場に向かって来る。

「よーし、よし」

カーネリアが声を掛けると、ブルージョンは風を巻き上げながらカーネリアのすぐ横に着地し、蹲る。お腹一杯餌を食べて満足したのだろう。ブルージョンは離着陸場の地面に蹲りながら満足した時に出す、低く喉を鳴らす声をだした。カーネリアはすっかり寛いだブルージョンの羽毛にそっと触れ、ベヌゥの温もりを感じながら、離着陸場から見える景色を見詰めた。

見晴らしの良い離着陸場から見える夕方の景色を見ながら、カーネリアとブルージョンは鳥使い達が帰って来るのを待った。離着陸場の先に見えるのは、鳥使いの村がある山を取り囲む巨体な樹木の群れとその上を覆う青と水色と白の縞模様を織りなす空、そして大きな天体ビティスと三つの月が浮かぶ空だ。生まれた時から見慣れた美しい樹海の風景……カーネリア達鳥使いの一族は、この樹海の深緑と呼ばれる中心部にある、切り株のような形をしている山の頂上に、村を作って住んでいた。鬱蒼とした巨樹の森とそこに住む生き物達が人間の侵入を拒んでいる深緑の中にあって鳥使い達は、十世代以上も前からベヌゥの助けを借りながら樹海を移動し、他の人間と争う事も無く、樹海の恵みを利用しながら生きて来たのだ。奇妙な空飛ぶ機械に乗った人間達が現れるまでは。

 それは一年の長さが、新生児が思春期の子供に育つまでの長さがある、この世界での半年前の事だ。突然人間を乗せて空を飛ぶ機械が樹海の外側、樹海周辺部と呼ばれる場所に現れ、樹海の生き物達をさらっていったのは。この忌々しい連中は生き物達を生け捕りにしただけでなく、樹海周辺部に火を放ち、樹海を焼き尽くそうとまでしたのだ。この恐ろしい企みはベヌゥと鳥使い達の力で阻止することができ、樹海に火を放った飛行物体を鳥使い達が追い帰してからは空飛ぶ機械が襲う事は無くなったのだが、鳥使い達は飛行物体への警戒を続けていた。樹海で自分達の仕事をしながらも監視を怠らず、空に何か不信なものを見付けたら、すぐに鳥使い達全員に知らせるようにしていた。不信な物体の情報は鳥使い達がイドの力を使い、鳥使い達に伝えられた。今も時々不信な飛行物体が目撃され、鳥使い達は常に樹海の見回りをして、飛行物体の侵入に備えていた。かつての様に、飛行物体が攻撃してくるような事件は起こってはいない。一応、樹海は平穏だ。樹海周辺部で始まったある異変をのぞいて。離着陸場で鳥使い達の帰りを待つカーネリアの意識には、その異変の様子が他の鳥使い達の意識を通じて伝わって来る。カーネリアの意識に映るのは、深緑の樹と比べたら低い、それでも樹海の外の樹木よりもはるかに高い木々が茂る樹海周辺部の森に、転々と花の塊が咲いている景色だ。今の季節、夏から秋へと移り変わる季節に咲くベダと言う植物の花の群生だが、今咲いている花の群生は、今までになく大きな群生になっている。このままでは、鳥使い達が恐れている事態になりそうだ。大量の花が実を着け、その実を食べる生き物達の大量発生を招く事と、実を付けた後の植物が一斉に枯れる事で起こる生き物達の激減という事態だ。この異変をいち早く見つけ、鳥使い達に知らせたのは、未だ樹海周辺部や樹海周辺部と隣接する町を放浪するジェイドだった。ジェイドは放浪を続けながら樹海周辺部の様子を鳥使い達に知らせていた。パートナーのベヌゥを失っても、ジェイドにはまだ鳥使いの力がある。それなのにジェイドは鳥使いの村に帰ろうとはしない。おそらく何か鳥使いの村に帰るきっかけがあれば、ジェイドは鳥使いの村に帰ってくるのだろうが……。

 カーネリアが鳥使いの祖であるハリの書いた書物を探しているのは、ベダの花の一斉開花への対応策を探す為だった。ハリがベヌゥと共に鳥使いの村のある山に来た時も、樹海周辺部を覆い尽くすようにベダの花が一斉に咲き、その後大量の実を着けた後にすべて枯れてしまうという出来事があったと言う。その時ハリとパートナーのベヌゥは、大量発生した生き物達が樹海周辺部の町や村に押し寄せるのを防ぎ、ベダが枯れた後に絶滅しそうになった樹海の生き物を保護して樹海の生体系を守ったと言う。その時の記録を探れば、これから起るかも知れない異変に上手く対処できるだろう。カーネリアはそう思っていたのだ。でも、肝心の書物がハリによって持ち出されたとは……。カーネリアは空を見上げながら溜息をつく。その時、カーネリアの傍にいたブルージョンが一声大きな鳴き声を上げ、ベヌゥ達の帰りを告げた。

 空に現れたベヌゥ達は離着陸場の上まで来ると降下し、次々と離着陸場の地面に着地する。彼らはカーネリアが待っていた樹海の見張りに出か鳥使い達ではなく、樹海周辺部と深緑の間にある山で鉱物を採集して帰って来た、熟練の鳥使い達だ。

「お帰りなさい」

全部で五羽のベヌゥ達が着地し終わると、カーネリアはベヌゥの背中から降りてくる緑の騎乗服を着た鳥使い達一人一人に声を掛る。そしてベヌゥを連れて洞窟へと向かう鳥使い達に続いて、ブルージヨンと共に洞窟に戻った。

 洞窟に入ると鳥使い達は騎乗服と繋がった帽子を頭の後ろにずらし、鳥使い一族の特徴である黒髪を露わにすると、ベヌウの騎乗具を外すて騎乗具の物入れに入れていた今日の収穫を取りだした後、黙ったままベヌゥ達の世話を始めた。いつもだと仕事から戻った鳥使い達はおしゃべりをしながらベヌゥの世話をし、カーネリアのようなその日仕事にでなかった鳥使いにはその日の出来事を話すのだが、今日に限って何も話そうとしない。しかしカーネリアには、何故彼らが黙ったままなのかが解った。鳥使い達が仕事をしに行った先で見た事が、カーネリアの意識に伝わって来たのだ。小型だが明らかに人間の手で作られた飛行物体の姿が。

「まさか、飛行物体がまた侵入してきたの!」

愕くカーネリアに、鳥使い達はゆっくりと頷き自分たちが何を見たのかを話し始める。

「私達が深緑の山で火炎石を集めている時に、現れたんだよ。樹海の中心である深緑にだよ! そいつは暫く空を旋回した後、猛烈な速度で樹海から飛び去って行ったよ。私らが追っかけて行ってもすぐに逃げられ、少し経つとまた姿を現す。その繰り返しだよ。きりが無いので後は見張りの鳥使い達に任せて帰って来たと言う訳さ。まったくもう……」

年配の男性鳥使いが、布でベヌゥの身体を拭きながら飛行物体を見た時の事を話す。

「また樹海の生き物を生け捕ろうとしているのかしら」

男性鳥使いに続いて、同じようにベヌゥの世話をしている中年の女性鳥使いが心配そうに話す。

「いや、そうじゃないだろう。樹海の生き物を生け捕るには、あの飛行物体は小さすぎる」

今度はまだ若くてがっしりとした体格の男性鳥使いが、洞窟の床に落ちたベヌウの羽毛を拾いながら話す。

「じゃあ誰が何の為に、飛行物体を飛ばしているのかしら」

鳥使い達のやり取りを聞いていたカーネリアが、思わず疑問を口にする。人を乗せない小さな飛行物体を作って飛ばしたとして、はたして何が出来るのだろうか?

「どうせろくでもない目的で、あんなものを飛ばしているのだろうさ。今度見付けたら、叩き落としてやるだけだ」

若い男性鳥使いが、語気を強めながら言うと、洞窟の奥に拾った羽毛を片付けに行った。

「いずれにしても、今の所小さな飛行物体の情報は不十分だ。まず飛行物体についての情報を集めないといけないだろう」

年配の男性鳥使いが洞窟にいる鳥使い達全員に向かって言うと、聞いていた鳥使い達は静かに頷き、ベヌゥ達の世話を続ける。よりによって樹海に異常事態が迫っているかも知れないと言う時に、忌まわしいものが現れるとは。それにしても、何処の誰が飛行物体を作り、空に飛ばしているのだろうか? 多くの鳥使い達が考えているように、今は忘れられた昔の遺物に関心のある人間が、かつてこの世界へやって来た祖先達が使っていた機械を復活させたものだろうか? 鳥使い達がベヌゥの世話を続けながら色々と詮索している間に、樹海の見回りをしている鳥使い達から飛行物体の情報が、意識を通じて伝わって来た。

「あの小さな飛行物体は、まだ樹海を飛んでいるみたいね。それも深緑の中を」

世話をし終わり、自分のパートナーを洞窟の外にだした中年女性の鳥使いが、自分の意識に受け取った情報を口に出して言う。カーネリアの意識にも、樹海を自由自在に飛び回り、鳥使いを乗せたベヌゥが近付くとすごい速さで飛び去って行く飛行物体の姿が浮かび上がる。この小さいが小回りが利いて猛烈な速度を出せる飛行物体は、今のところ何の悪さをしてはいないが、樹海の中心部である深緑に出没している。このままでは、今まで出没した飛行物体が近付かなかった、深緑の奥に入るのも時間の問題だ。何んとしても、飛行物体の行動を阻止しなければ。鳥使い達の意識には、樹海の見守りをしている鳥使いとベヌゥが懸命に飛行物体を追おうとしている姿が浮かぶ。飛行物体を見付け、一斉に飛行物体を取り囲もうとする鳥使いとベヌゥ達、しかし飛行物体は追いかけてくるベヌゥ達を出し抜き、飛び去って行く。そして鳥使いとベヌゥが樹海の見回りに戻ると、再び姿を現す。それが四五回繰り返され、見回りの鳥使い達は飛行物体の追跡を諦め、村に帰る事にしたのだと言う。

[カーネリア、もうすぐしたら、村に着くからね]

カーネリアの意識に、良く知った女性鳥使いの意識が入ってくる。モリオンだ。カーネリアの頭に、茶色い髪をした女性鳥使いの姿が浮かぶ。樹海の外の村で生まれたのに、鳥使いとなった変わり種の鳥使い、モリオン。そう、モリオンは図書室でハリが書いた記録を探すカーネリアの替わりに、今日一日見回りの仕事に出てくれていたのだ。帰ってきたら、真っ先に礼を言わなければなるまい。カーネリアは、さっき帰って来た鳥使い達がベヌゥの世話を終え、バートナーのベヌゥを洞窟の外に出した後、集めてきた鉱石を持って洞窟の奥の階段に消えて行くのを見送った。

「さぁ、私達は外に出て、モリオン達が孵るのを待ちましょう」

カーネリアはブルージョンに声を掛けて立たせると、ベヌゥと共に再び洞窟の外に出て行った。外の様子はさっきとは変わりは無い。ただビティスと一緒に空に出ている月の数が一つ増え、夕暮れが深くなっているだけだ。暫く空を見上げていると、薄暗くなった空に五つの銀色の光が見えて来た。モリオン達が帰って来たのだ。銀色の光が鳥使いを乗せたベヌゥの姿に替わると、ブルージョンが一声鳴いて、かえって来るベヌゥ達に挨拶をする。

「お帰り」

カーネリアがどんどん離着陸場に近付いて来るベヌゥ達に声を掛けると、ベヌゥ達は次々と挨拶の声を出しながら離着陸場の上空に来ると、次々と離着陸場に着地し、背中の鳥使い達を降ろす。離着陸場に降り立った鳥使い達は騎乗服と帽子を頭の後ろにずらすとベヌゥ達を立ち上がらせ、洞窟に向かう。その中に茶色い髪をした女性鳥使い、モリオンがいた。

「ただいま、カーネリア。ハリが書いた記録は見付かった?」

モリオンは自分のパートナー、ジェダイドと共にカーネリアの傍に寄って来ると、一緒に洞窟に入りながらカーネリアと話し始めた。

「見回り、ご苦労さま。お蔭で今日一日、図書室で古い記録を調べられたわ。でも、肝心のハリ自身が書いた記録は見付からなかったの」

「そうなの、残念ね」

モリオンは洞窟に入ると、ジェダイドから騎乗具を外しながら残念そうに言う。

「でも、図書室係のオロベェルディから重要な話しを聞き出せたわ」

「へぇ、どんな話し?」

ジェダイドの羽毛を撫でて羽毛の様子を調べながら、モリオンはカーネリアに聞き返してくる。

「ハリが書いた記録は、ハリ自身の手で樹海の何処かに持ち出されたって言う話しよ」

モリオンはカーネリアの話しに興味を感じたようだ。暫くベヌゥの世話をする手を止めてカーネリアの話しを聞いた後、再び手を動かし始めた。

「そうなの、だから村の図書室には、ハリの書いた記録が無いのね」

モリオンはジェダイドの身体を布で手早く拭きながらカーネリアに話し掛け、拭き終ると布を洞窟の床に置く。そして騎乗服のポケットから子供の拳ほどの大きさの木の実を取り出し、ジェダイドに与える。ジェダイドはモリオンの手から木の実を啄むと、低い鳴き声を上げると立ち上がり、洞窟の外に向かい、ブルージョンがその後に続いて外に出る。外はもう、完全に夜になっていた。ベヌゥにとって夜は、休息の時間だ。夜中に仕事をする鳥使いと行動を共にする時以外、夜は鳥使いの村がある山の斜面に掘られた塒か、深緑の巨樹の枝で休んでいるのが普通だ。ベヌゥ達は世話が終わった順に離着陸場に出て、空へと舞い上がった。

「さぁ、私達も食堂にいって、暫く休みましょう」

薄暗い中に、ピティスと月と星の光が輝く空に昇った後、離着陸場の下へと降下するブルージョンとジェダイドを見送ると、カーネリアと騎乗服のボタンを緩めたモリオンは洞窟へと戻ると奥の階段を下り、鳥使い達が休息と食事を取る食堂へと向かった。


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