第35話 母の憂い〈王妃side〉
豪華さに気品も備えた王妃の客間。
今しがた私の密偵が報告に来た。
昼間の彼は平均的な貴族に
「ルーザリア嬢の件です。罪状通り修道院に送られたのですが……」
彼は言い淀む。
「途中で一緒に居た商隊ごと盗賊に襲われまして……現在行方不明です」
「まぁ。捜索は?」
「
「ふぅ、仕方ないわ。それは続報待ちね。でもそれ……クラウンには伏せておいてね」
「かしこまりました」
「それで、フールの脱獄の件は?」
「こちらも
「困ったわね」
うーんと唸り紅茶を飲んで考える。
フールが捕まらない事で、第一王子派が不利になる事はもう無い。
彼が第二王子派の仕業だと言い残した為に、むしろこちらが優位に立てる気配さえある。
でも……。
だとすると、彼は誰の
そこに謎が残る。
「奴はかなりの
「そんな者が向こう側の人間……? 本当に大丈夫なの?」
「王妃殿下、安心なさってください。もしと申しましたでしょう? あれは恐らく、第二王子派の手先ではないと私は踏んでいます。」
やはりそうかと思うが、では誰が?
心当たりが多過ぎて分からない。
「送り込んだ者の
「今それを調べている所です。簡単にはいきませんが、遠からずご報告できると思います」
「それは、フールを泳がせているという意味?」
「
「……分かりました。引き続き続けてちょうだい。──それから。……クラウンはどうでした?」
私の声の調子が変わった途端、彼はニヤリと笑った。
「結果から言いますと、
やっぱり……。
ここ数日の体調不良はそれが原因ね。
「ルーザリアの言動が、予想以上に酷かったの?」
「そのぉ……『彼女が』と言うより、奴のほうが何枚も上手でして……」
「奴?」
はっきり言ってもらわないと、どう言う意味かさっぱり分からない。
私のイラつきを察して男は言い直す。
「奴は我々が見ている事も、クラウン殿下が見ている事も分かっていて……完全に
なるほど。
フールは我々が思う以上に優秀で性悪だったようね。
私たちなど『取るに足らない相手』と見下されたも同然だった。
捕まって牢に入れられ、拷問も受けていた彼に、まだそんな余裕があったなんて……。
私はフールの背後に強大な者の影を感じ、戦慄を覚えたのだった。
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