第18話 利害の一致
なぜ今この時に私とクラウン殿下の婚約の事を──それも破棄ではなく解消だなんて言い出したの?
殿下との婚約を穏便に解消できるのは有り難いけど、今さっきそれはダメだと散々言い聞かされたばかりなのに……。
不思議そうな顔をヴィクターに向けたら、彼はふわりと笑う。
笑って良いのか判断付かずに苦笑いを返したら、目の前にいた王妃殿下のため息が聞こえてきた。
「分かりました」
「え!?」
まさかの返事に驚いてしまった。
だけど驚いたのは私だけで、ヴィクターは当然のように頷いてる。
私は頭が真っ白で、二人の会話に入って行くどころではない。
「……それだけですか?」
「はい。あとは自分で何とかします」
「……あなたを敵に回さないほうが良いことは分かりました。でも、クラウンにはグレイシアのような子でないと……。王太子妃は誰でも良いという訳にいかない事はあなたなら分かるでしょう?」
情けなさそうに項垂れた王妃殿下がそう呟く。
「それこそ大丈夫ですよ」
「そのように無責任な……」
「一人心当たりがあります」
「そんな都合よく見つけられるものではないわ」
「隣国の第三王女なんですが、どうですか?」
「第三王女? 隣国には第二王女までしかいないはずでは?」
王妃殿下は完全に疑いの眼差しを向けている。
「そうだったのですが……隠し子が見つかったそうで……」
「
王妃様にピシャリと釘を刺されたが、ヴィクターに困った様子はない。
「母親はこの国の元侯爵令嬢です。彼女は今まで侯爵家の領地で隠されていた。それが、隣国の王太后陛下が亡くなられて、表に出せる事になったようです」
「まぁ! 確かにあの国王は実母に弱いという話は聞いていましたが……」
「行儀作法どころか、王族復帰ができるように育てられていて、引くて
これって極秘情報よね?
私が知っても良かったのかしら?
というか、なんでそんな情報をヴィクターが持ってるのよ!?
「確かなのね?」
「もちろんです。それと……こちらでお膳立てしたものを壊したりしなければ、王妃殿下の希望通り事は運びます」
「それは……?」
「父は私が側近として
そこまで言ってヴィクターは王妃殿下の顔色を見る。
期待に満ちた顔と出会って苦笑した。
「手を貸してくれるのですか?」
「クラウン殿下次第ですね」
そう言ってヴィクターはなぜか私に微笑みかける。
「あの子に王位を継がせたいのです」
「私は欲しいものは必ず手に入れる主義で……その為の労力は惜しみません」
思わず見惚れるような良い笑みを見せるヴィクターに、王妃殿下がドン引きしている。
「……負けたわ。私はあなたに賭けることにいたします」
「では取引成立ですね」
そしてあれよあれよと言う間に、本当にクラウン殿下と私の婚約解消の書類が用意され私はサインしていた。
「あとでクラウンにサインさせるわ。婚約解消の件は私が責任を持って必ず完了させると約束します」
「ありがとう存じます。それでは、正式にクラウン殿下の婚約が円満解消されたと発表後、新たに隣国の第三王女を迎えられるよう手配しましょう」
「あなたの働きに期待します」
こうして私たちは家に帰る事を許された。
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