第14話 反撃
さぁ、もうそろそろ反撃させてもらおうかしら?
手始めに私はヴィクターに話を振る。
「ヴィクターは私がチャボットに毒を盛ったと思います?」
「いいや。馬は鼻も良ければ頭も良い。あの毒特有の甘い匂いが分からないなんて有り得ないだろ?」
それはそうだ。
数は少なくても、あの毒の原料となる草はこの大陸に自生しているのだから、もし選り分ける能力が無かったら馬はとっくに絶滅している事だろう。
ヴィクターが肩をすくめると、フールはカチンときたようで真っ赤になって言い返してくる。
「そんな事はないだろう。現にチャボットは死んでいるんだ」
「そうかい? でもチャボットがあの毒で死ぬのなら、かなりの量を食べる必要がある。食べたのはトウモロコシの実なんだろう?」
「何を言ってるんだ? チャボットが死ぬのにはトウモロコシ一本分も要らない」
ここまで来ても彼は気が付かない。
クラウン殿下は難しい顔で成り行きを見守り始めたというのに、それすらも視界に入っていないようだ。
「君、何か重大な勘違いをしてそうだよ?」
「は?」
「フール!」
ルーザリアはまだ本質を理解している訳ではないが、どうやら彼女は勘が良いらしい。
首を横に振ってフールに何も言うなと合図を送っている。
何か分からなくても、このまま先に進んだら良くない事が起きる予感がするみたいだ。
震える手がクラウン殿下の服をキツく握っている。
でもそんな態度、ヴィクターには逆効果だ。
だって子供のころの彼は、イタズラして人を困らせるのが好きだった。
ほら、種明かししたくてウズウズしてる。
すごく楽しそう。
「チャボットはね、馬だよ?」
「「う、馬!?」」
「そう、クラウン殿下の白馬だ」
「嘘!?」
「な、何を馬鹿なこと……」
驚くルーザリアとフール。
「……知らなかったのか?」
「え? いや、その……」
「君たちが話しているチャボットは、ニワトリのことなんだっけ?」
「そ、それは……」
ヴィクターの追及に見る間に顔が青ざめていくルーザリア。
クラウン殿下の腕がすでに離されている事も気が付かない。
殿下は動揺を隠せず、一歩、二歩と後退し、困惑した表情で二人を見る。
「ルーザリア、フール、お前たちは私を騙していたのか?」
「クラウン様、違います! 私、私、本当に知らなくて……。だって、急にチャボットを殺したって言われて、何も知らない私に罪を着せるような事をされて……怖かっただけなんです!」
「俺は、あの小屋で育てられているのがチャボットだって聞いて……それで死んだのがニワトリだったから、てっきりあれがチャボットだと……」
二人とも必死の形相でクラウン殿下に言い訳するが、一度疑惑を持ってしまった彼らをもう一度信じる事はさすがにできなかったらしい。
殿下は得体の知れないものを見るような目を向け、歩み寄る気配はない。
「それでは、毒殺というのは?」
「それは獣医がニワトリの死因を調べた結果で……。ですからやっぱり私たち、グレイシア様に騙されていたんです」
「僕はその事件の直前にグレイシア嬢を見て……だから彼女が犯人だって証言したんです」
「グレイシア、こう言っているがどうだ?」
クラウン殿下の声に先程のような張りがない。
殿下もまた、自分の認識が間違いであるかもしれないと、心配になってきているのだろう。
「それですけど、無理だと思いますわ」
「なぜだ?」
はぁ……。
思わずため息が漏れた。
「殿下は一番お分かりになるかと思いましたのに……」
私が残念そうに言うと、ヴィクターが肩をすくめやるせない様子で首を振る。
「殿下は
「何なんだ。分かるように言え」
バカにされたと思ったのか、殿下が挑むように睨んで説明を強要した。
だが、当の本人ヴィクターは殿下からの圧力なんてまったく感じていないらしい。
彼はいつもの
「クラウン殿下。グレイシア嬢は王太子殿下の婚約者でしたよね?」
「それがどうした? もう違うぞ」
「当時の話なので。現在の事は忘れてください。それで……未来の王太子妃には、どのくらい護衛が付くかご存知ですか?」
「護衛……そうか!」
さすがのボンクラ王子様でもピンと来たらしい。
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