第13話 疑惑
こういう時に役立つのがお妃教育。
やろうと思えば……。
「証明? だから、僕が見たって言っているんだ。それ以上確かな証拠など必要ないでしょう?」
「ではその時、私の顔をはっきり見ましたか?」
「えっ……と、髪だってあなたと同じ青だったし、ドレスも今着ている水色と似た色だったし……顔は……いや、やっぱりあなただった」
わずかにハッとしたのを見逃すような私ではない。
余裕の笑みで、自身の顔がよく見えるようにフールに近づいた。
「この顔でした?」
「あ、あぁ。そうだ」
「でも、今日はいつもとお化粧を変えていますの。流行りの化粧なんですって」
「え?」
「あなたがその時にいつもの私を目撃したのでしょう? それで今日の私を見て本人だと即答できるだなんて……よほど良い目をしていらっしゃるのね」
「ぐっ! け、化粧くらいで何が変わるんだ? 別人ってほど変わらないだろ」
明らかに不利だと悟ったのか、先ほどまでの自信に満ちた態度は見る影もない。
「素晴らしい観察眼ですわ。 でも、それなら何に驚いてらしたのかしら? まさかここまで来て、人違いとは言いませんでしょう?」
「あ、いや、それは……だから! 遠くで見るより……えーと……お綺麗だと思ったんですよ!」
「お褒めいただいてありがとうございます」
苦肉の策で絞り出した嘘のお世辞でしょうけど、ヤケクソで叫ばなくても良いのに……。
「それで……クラウン殿下は? 殿下も私の顔を見て動揺されていたようですけれど。あれはどういった意味で?」
「あれは……その……久しぶりに会ったからな。ちょっとほら……」
「殿下も見惚れて下さいましたのね?」
「え? いや、違うぞ。違う。断じていつもより美しいだなどとは思っていない」
クラウン殿下が慌てて弁明する。
あらやだ。
おふざけで言ったのに、図星だったの?
当然その腕の中に収まっていたルーザリアは、他の女を美しいと褒める恋人に嫌悪感が湧く。
彼女は化けの皮が剥がれそうな勢いで顔を引き
まぁそんな事、私には関係ない。
関係あるのは……。
これでクラウン殿下の心には『疑惑』が生まれたという事だ。
化粧でこんなに変わるなら、厩舎にいたのは別人だとしてもおかしくないと……。
しかしその意味が分かる者は少ない。
周囲の者は黙り込んだ殿下を不審に感じながらも様子を見ている。
フールだけが、自分の発言を信じさせるためにあれこれ言い訳じみた事をしてみたが、言えば言うほど嘘くさくなるため、まともに耳を傾ける者はもういなかった。
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