第6話 証人
こんな衆目を集める中で婚約者であった人から責められたなら、普通の令嬢は怯えて何も言えなくなるか、もしかすると既に倒れてしまっているかもしれない。
でも私はそんな
将来『国王の留守を守ってどんな相手とも渡り合えるように』という名目の元、教育という名のシゴキを何年も受けてきたのです。
私を指導した教師陣の中には『淑女』と聞いて呆れるくらい、本当に意地の悪い先生も居ましたのよ?
「そうですか、それなら私がやったという証拠も有るのでしょうね?」
「あぁ、当たり前だ。そこのフールが証人だ」
クラウン殿下の言葉で、先程の銀髪君が進み出る。
このフールっていう人、どこのご子息かしら?
いい加減誰か紹介してくれたら良いのに。
私は学園の生徒の資料にはすべて目を通したはずなのにと思ったが、いまはそれを聞いている場合ではないので諦める。
フールはクラウン殿下とルーザリアに頷くと、私の正面に並んで立った。
「さぁ、君が見たままを話してくれたまえ」
「はい」
そしてワザとらしく咳払いをしたフールが話はじめた。
「僕がたまたまチャボットの小屋にいた時、中で暴れ回るチャボットを見ました」
「……小屋の中で、暴れていた?」
「はい。それは苦しそうで……そこら中、のたうち回っていました」
「のたうち回る……そこら中……本当に?」
「えぇ、本当です」
私にはとても信じられませんが、もしかすると痛みで足をバタつかせたりしたのだろうか?
まぁ、表現が多少
「……それでどうなりました?」
「僕はすぐに人を呼び確認してもらったのですが、もう手遅れで……あとは息を引き取るまで抱いているのが精一杯でした」
「だ、抱いて?」
「はい。膝に乗せて介抱したのですが……ダメでした」
「膝に乗せた? チャボットを?」
「……いけませんか? 動物だって生きてるんです。人と同じように接したってかまわないでしょう?」
「……もちろん、それは構いませんが……大変だったでしょう? 立派です」
私が驚いていたからでしょうか?
フールは訝しげで、不機嫌そうな様子のまま続けます。
「それで……亡くなり方がおかしかったので、飼育員と共に周辺を調べたら、餌箱の中から毒で変色したトウモロコシが……」
「トウモロコシ、ですか?」
「はい。何か疑問でも?」
「いえ。それで色が変わっていたのは、餌箱の中の物だけでしたか?」
「はい」
「チャボットが食べるところを見ていたのですね?」
「ずっと見ていた訳ではないですよ? たまたま飼育員と一緒にそばにいて、何となく見ただけです」
「なるほど。ではチャボットがどのくらいの量を食べたのかは分かりますか? 何本くらい食べたかとか……」
「何本? そんなに食べるわけがないでしょう。餌に混じっていたのですが、よく見なければ分からないほど少なかったんです。精々数十粒とか、それくらいじゃないですか?」
「そんなに少量で?」
「そうです」
自信ありげに断言されて、何となく反論する気持ちが失せた。
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