とうに夜半も過ぎて

まる・みく

第1話 トンネル

 あれは私がまだ小学生の頃だった。


 私の母が友人の旅館の女将に乞われて、海辺の旅館の宴会の手伝いに行った時の事だった。


 何故、あんな遠い所まで行ったのか憶えていない。


 歩いて、海辺の旅館街に向けて歩き始めた。


 家で待っていれば良かったのだが、家にいても暗いし、怖かったのだろう。


 歩き始めたら、止まらなくなり、街灯を頼りに暗い夜道をどんどん歩いて行った。


 終着前のトンネルが怖かったのを憶えている。


 自分の影が通る車のヘッドライトで大きくなったり、それが消えたり。


 その影を見ながら、何で、こんな所まで来ちゃったんだろう。


 トンネルは三つ、いや、四つあったか。


 それを抜けて、坂道を上った所に、母親の友人の旅館はあった。


 行くと、母親は「あ、来たの」と言う感じった。


 母親の友人は笑っていたが、作り笑顔だったんだろうなと今更にして思う。


 とりあえず、旅館の玄関先に合った休憩室に通されて、炬燵に入り、女性週刊誌を読んだ。


 漫画本なんかなかった。


 その女性週刊誌の健康情報やお料理レシピを眺めながら、寝てしまった。


 起きると、朝で土産物前のバス停からバスに乗って帰った。


 途中、通って来たトンネルを抜けたが何でもない普通のトンネルだった。


 怖かったのは、自分の影だけなんだ。


 それを理解するのは、ずっと後の事だが、朝日の中、バスに揺られて自宅に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る