数字の歴史家

シヨゥ

第1話

「帳簿は過去を書き残すひとつの歴史書だと思っている」

 経理に配属された同期とたまたま休憩のタイミングが合い仕事についての話になった。

「誰が何をしてこの数字を生み出したのかという細かい点を省き、ただ結果を残しているという点では不完全も不完全だけれども」

「なるほどな。たしかに決算書とかに載っているのは俺が見ている時点より過去の結果だもんな。たしかに歴史書と言えば歴史書か。となるとお前は歴史家ということか。ずいぶんとご立派だな」

「それがこの仕事の唯一の誇りだからね。それがなかったらただ回されてきた数字を記録する記録員だ。終わりのない記録を取り続けるのは地獄だからね」

「記録員と歴史家。たしかに歴史家の方が胸を張って仕事をできるか」

「そういうこと。ということで今を生きる営業さんには歴史を刻むために早々に経費や売り上げに関する書類を回していただきたいんだよ」

「最後に刺してくるじゃないか」

「刺さるんだったら身に覚えがあるってことだよ。僕らが刻むのは勝者が作った作為的な歴史じゃなくて、事実に基づいた歴史なんだ。細大関わらず漏らすことなんてできないんだよ」

 休憩は終わりとばかりに彼は立ち上がった。

「いい気分転換になったよ。書類が山積みで禿げそうだったんだ」

「それは良かった。頑張ってくれよ」

「そっちこそ。僕の給料は君たちにかかっているんだから」

 手をひらひらと降ってデスクへと戻っていく。なんだか経理の苦労の垣間見たひと時だった。

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数字の歴史家 シヨゥ @Shiyoxu

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