第190話 依頼内容その1

「依頼?それは開拓者としてのか?」

「もちろんです」


 ラルフの問いにミルコは真剣に答える。


「俺はまだ開拓者レベル3の初心者だ。それにルーは上級者レベル30だけど、今は手負いだ。それにこいつ戦闘以外はポンコツだぞ?」

「ポ、ポンコツ…」


 ルーはラルフの言葉にショックを受けている。それを見ているアッザムやナナは驚きながらもルーの反応に笑みをこぼす。

 そんなルーに構いもせず、ラルフはミルコに訝しげな表情をしながら見つめている。ラルフはミルコがどのような人間か見定めようとしているのだ。


「ラルフさん、ルーさん。あなた方には圧倒的な実績があります。先日のゴブリンキング襲来。その前のカルロッサムからの遺物を持ち帰った件。そして冥王のドラゴンを持ち帰ったのもそうです。その反乱組織である超越者を撃退までしてね」

「ちょっとあんたどこまで知っているのよ!?」


 ナナがツッコミを入れる。ドラゴンの卵の件は公にはされていない。ましてやそのドラゴンの卵を狙っていた謎の組織のことまで知っているのだから。


「それも企業秘密か?」


 ラルフはミルコが口にしそうな言葉を先読みして先に口にした。ミルコはにっこりと笑って「そうですね」と答えた。


「…そんなに情報通ならお前はこのルーの正体は知っている感じだな?」

「もちろん」


 ミルコは当然ですと言うように頷いた。そして「今は関係のないことでしょう」と付け加えた。その言葉に全員が驚く。どうやら本気でラルフたちに依頼をしたいと思っているようだ。


「とりあえずどんな依頼なんだ?話してみろ」

「私の依頼、それはあなた方に夜光草を採って来てほしいのです」

「夜光草?なんだそれは」

「夜の光に照らされて咲く花のことよ」


 ナナが割って入る。


「夜光草は確かに珍しい花だけれども、でもそこまで稀少の者でもないわよ。なんならセクター2の方へ行けば普通に売ってるし、いざとなればミルコさん、あんたの実力なら1人で取ってこられるでしょ」


 だがミルコは首を横に振る。


「ただの夜光草ではないのです。私の求める夜光草は特別なものです」

「特別?なんだそれ」

「はい、それは……」


 ラルフの問いにミルコは口を止めた。そしてアッザムとナナの方へと顔を向ける。ナナは「何よ」と口を開く。

 ミルコは少し間を開けて息を吐きだした。


「本来ならここから先も情報料を頂くほどのことなのですが、仕方ありませんね」


 そう言って話し始めた。

 夜光草。夜の光に照らされて育つ花。即ち月の光に照らされて育つ非常に珍しい花なのである。以前、研究者の1人がこの夜光草を月の光を遮断し、日光だけで育てようとしたが、たちまち枯れてしまった。逆に日光を遮断し、月の光のみではすくすくと育った非常に不思議な花である。一説によると、この月光草はこの星に生まれた植物ではなく、月から運ばれた植物だと言われるほどであった。


「その夜光草、最近の研究では病に効く花と言われるようになったそうなんです。そしてその効果は月の光に照らされれば照らされるほど効果があると言われています」


 ラルフとルーはただミルコの話に「へぇ」と驚きながら頷くばかりであったが、アッザムとナナは違った。金の匂いを嗅ぎつけていた。この夜光草は金になると。


「それで、おめぇはラルフと嬢ちゃんにどこの夜光草を採って来てほしいんだ?」


 アッザムは面白い話を聞けたとばかりに身を乗り出して訊いている。なんとかして自身もこの話に乗りたいと思っているのだ。ミルコはそのアッザムの反応を見て、やっぱりなとフッと笑う。安易に考えていると。


「遮るものが無く、月の光を存分に浴びられる場所にある夜光草………」


 ごくりと唾を飲み込むアッザム。その場所を知ることが出来れば自分たちで採りに行けばいいからだ。

 そんなアッザムに今からミルコは場所を口にし、分からせるつもりであった。


「先日大規模侵攻が失敗した場所、グリフォンの巣となっているレッドマウンテンです」

「はっ」


 その瞬間、アッザムは諦めたと言わんばかりに声を出した。横に居たナナもダメだこりゃと言わんばかりに天を仰ぐ。商売にならないと踏んだ2人はミルコの話の内容に一気に興味が冷めた。

 ミルコはそんな2人を一瞥し、未だ興味津々とばかりに続きを待っているラルフたちに話を続ける。


「そのレッドマウンテンには雷を扱う魔物も出ました。今回の騎士たちの大規模侵攻の失敗とも言われる魔物です。レッドマウンテンは今、最も危険な場所と言っていいでしょう。ですがどうかその場所のレッドマウンテンにある夜光草を採って頂きたいのです」


 改めてミルコは頭を下げた。

 ルーはその話を聞いていくらなんでもこの依頼はと難しそうな顔をする。ルーはグリフォンの厄介さを知っている。空の支配者と言われるほど空を自由に舞い、大きな爪でこちらの肉を抉り取ろうと襲い掛かって来る。加えて山という斜面の足場が難しい場所。


(ラルフを守りながら戦うというのは非常に難しいです。それに雷を扱う魔物。そちらの危険度については未知数)


 ルーは最初から結論は出ていたが、少し考えて確信に変わった。これは無理だと。だがラルフはミルコの顔を見つめたままずっと見定めるかのような表情をしたままだ。


「その夜光草を採ってまた金儲けするつもりか?」

「断じて違います。この夜光草を採って頂けるなら私は全ての財を差し上げても構いません」

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