熟考と浅慮

水野ヨウヘイ

熟考と浅慮

 ずっと何かに追い立てられている。それは輪郭すらはっきりとせず漠然としたイメージでしかないけれど。

 子供の頃から勉強はできた。運動だって人並みにはこなせた。所謂、優等生だった。親は、そんな僕に「好きに生きなさい」と言った。先生に言われるまま勉学に励み、成績は緩やかながら右肩上がりを続けた。同じく先生に勧められるまま成績上位の高校へ進み、難関とはいかないまでもそこそこ名の知れた大学へ入学できた。学生生活中には恋人もできた。順風満々だ、自分でもそう信じて疑わなかった。

 しかし、ゼミに所属した頃から僕の心は梅雨どきの空気のように淀んでいった。理由は分かっている。勉強は好きだったが、自分から課題を見つけ手探りで答えを探すことが苦しかったのだ。大人から言われるがままに歩んできた皺寄せが来てしまった。自分でやるべきこと、やりたいことを見つけるのはこんなにも労力を要するのか。世間とは、こんなにも生きにくいものだったのか。他人と関わらず、誰にも迷惑をかけず、ただただ静かに暮らしたい。そんな僕に、両親はなおも「好きに生きなさい」と言った。

 

 

 深く、ソファに身体を鎮める。足元、床を彩る紅い絨毯に視線を落とす。今日、模様替えをしてみたんだ。ひとりで飾り付けをしたから、少し難儀してしまった。疲れたな、手が痺れてる。眠たくなってきた。散らかった分の後片付けは、まあいいや、きっと誰かがするだろう。眠ろう。ソファに身体を鎮める。深く深く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

熟考と浅慮 水野ヨウヘイ @350m201y00

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る