第27話

 11月に東京で行われた全国大会に美玖は山本先生の引率で出かけて行った。

全国大会は選び抜かれた生徒たちの集まりだけあって緊迫感も半端なくさすがの美玖も圧倒されたと言っていた。

残念ながら賞に選ばれなかったが来年は絶対最優秀賞をとると張り切っていた。


 この大会が終わると放送部も大きなイベントがなく日々のお昼の放送をどうするかという事がメインとなった。

3年生は席はあるものの殆んど部活に出ることもなくなった。

普段は2年生の3名と1年生の2名の5名になった。

お昼の放送は月曜日は悠人、火曜日は春香、水曜日は亮、木曜日は美玖、金曜日は彩と放送するメンバーだけは決めたが基本5人一緒に携わっていくことになった。


 部活が終わると美玖は用事があると急ぎ足で部室を出て行った。

彩が駐輪所に向かうと悠人も同じようにやってきた。

帰る方向が一緒なので二人は自転車を押しながらどちらともなく並んで歩き始めた。


「彩ちゃん、キーホルダー、結局見つからなかったんだ」と悠人が彩の自転車の鍵に赤いリボンを結んでいるのを見て言ってきた。


「そうなんです。家も探してみたけどなかったんです。学校の落し物にもなかったし、新しくキーホルダー買おうかと思ったけどこの赤いリボンでいいかって、結局このまま」


「まぁ、無くなったのが鍵じゃなくて良かったね」


「はい、鍵じゃなくて良かったです」


二人は自転車を押しながら並んで歩いて帰りながら色々な話をした。 


「そう言えばユート先輩は中学では部活何してたんですか?」


彩は前から悠人に聞いてみたかった事を訊いてみた。


「俺?……俺は真面目な帰宅部だったよ」


「えっ!」と彩は驚いて悠人を見上げる。


「ウソって言いたいけど半分はほんと。俺は小さい頃から走るの得意で中学では陸上部に入ってたんだ。走っていると無心になれて面白かったな。でも2年の時、事故しちゃって後遺症が残って歩くことは出来るようになったけど走るのが無理になって結局辞めちゃった。走るのが全てだったから、目標を失くして、なんかあの後何にもする気になれなくて……。俺の人生、終わったって思って。辛かったなぁ」


「そう……なんですか」彩は返す言葉が見つからなかった。


「あっ、ごめん、湿っぽい話になって。こんな話したの彩ちゃんだけだよ」


「ごめんなさい。辛い事思い出させちゃって」彩は悠人に申し訳ない気持ちになった。


「彩ちゃんが謝る事ないよ。  でね、しばらくチンタラしてたんだけど、ある日、何やってんだ俺、こんな自分は嫌だって思うようになって。それで自分を変えたい、変わりたいと思って高校に入ってからは俺なりに努力して頑張ってるってわけ。亮から放送部に一緒に入ろうって誘われて、亮とは小学校の時からずっと友達でね、亮は落ち込んでた時もずっと心配してくれて。いいやつなんだよ。最初、放送部なんて全然興味なかったけど入ってみたら、お昼の放送の企画を練ったり、番組創りが面白くなって、今は超楽しいよ」


「それなら……良かったです」彩は何も気の利いたことが言えずにいると


「事故してなかったら放送部なんて全く選択肢になかったから、こうして彩ちゃんと一緒に帰るなんてなかったと思うから俺、超ラッキーだぜ」

と悠人がお道化て言うので彩も可笑しくなり

「ユート先輩、調子がいいんだから」と2人で大笑いした。



一人で歩けば長い道のりも二人で話しながら歩けばあっという間に別れ路の大丸スーパーに辿り着いた。


「じゃあここで、又明日」

そう言って笑顔を向ける悠人の顔が眩しく見える彩だった。


「はい、又明日」

悠人が自転車に乗って走り去るのを見送りながら


(ユート先輩、色々あったんだな。普段のユート先輩からは想像できなかった)


と思いながら胸がギュっと締め付けられるような気がした。


(ヤバい。このドキドキ感はなんなんだ。もしかして私、ユート先輩の事、す・き……かも) 







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