第21話
夏休みは終わり9月に入った。
彩は9月15日に行われる全国高校放送コンテストの地区予選に向けて毎日練習に追われていた。
一方、美玖の『朗読』は順調に上達しており山本先生から太鼓判を押されるほどだった。誰が聞いても表現力、声の出し方、間のとり方が完璧で心地よい朗読が出来ていた。
地区大会を3日後に控えたある日、彩は部室に一人残ってアナウンスの練習をしていた。そこへひょっこり悠人が部室に入ってきた。部室の入口に背を向けた状態の彩は悠人に気づくこともなく練習に夢中だった。
そこで悠人は持っていたミルクティーのペットボトルを背後から彩の頬に当ててみた。
「きゃあ!冷たい!」彩がびっくりして振り返ると、悠人が笑いながら
「調子はどお?少し休んだら」とペットボトルを差し出した。
「あ、ありがとうございます」
彩はペットボトルを受け取り一口飲んでみた。
冷たく甘いミルクティーが口いっぱいに広がり渇いた喉が潤い癒されていった。
「『ラジオドラマ』の方は仕上がったんですか?」と彩が尋ねると
「もう、完璧、あとは大会を待つだけ」と余裕の顔で悠人が笑う。
「そっか、いいですね、私は自信ないなぁ」
そう言う彩の持っている原稿を見て、悠人は感心した。
原稿の至る所にマーカーを引いて 「出だしはハッキリ大声で」「アクセントを気をつける」「柔らかく発音」「間をあける」などの走り書きがしてある。努力の跡が伺える。
(頑張ってるな)と思った悠人は
「大丈夫だよ、何なら今から俺の前でアナウンスしてみてよ。本番だと思って」
と提案した。
「えぇ~、恥ずかしいですよ」と彩。
「何言ってるの、本番は他校の生徒や審査員もいる前でアナウンスするんだよ。俺一人の前でビビってる場合じゃないよ」
彩は仕方なく悠人の前でアナウンスを始めた。
悠人はタイムを計りながらいつになく真剣に聞いている。
「いいよ、すごくいいよ。タイムも1分20秒で速さもちょうどいいんじゃないかな」と悠人が拍手してきた。
「そうかなぁ」と彩が不安そうに言うと
「一つだけ言うとしたら自信を持って堂々とアナウンスする事かな。笑顔も忘れずにね。他はいう事ないと思うよ。彩ちゃん、最初の頃と比べてごらん?先生に指摘されてた事全部クリア出来てるよ」
そう言ってくれる悠人の言葉に彩は嬉しくなって少し自信が湧いてきた。
「根を詰めすぎるのも良くないから、今日はこの辺で家に帰ってゆっくりした方がいいんじゃない?」
そう悠人に言われて
「そうですね」
彩は練習を終えて帰る事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます