僕と彼女の夏祭り
アシカ@一般学生
僕と彼女の夏祭り
暑い日々が続く八月、時刻は夕方6時前にも関わらず空はまだ茜色に染まっている。
僕の目の前を歩く浴衣姿のカップルやはしゃぐ子ども、それを見守る親。たくさんの人達が僕を無視して神社へ歩いて行く。
今日は年に一度の夏祭り。
そして僕にとって特別な日。
僕は慣れない浴衣を着て彼女を待っている
彼女とは高校で知り合った。
高校へ入り、すぐに何人か友達ができ、そこから親友と呼べる男女2、4の仲の良いグループができた。所謂「イツメン」って言うやつ。彼女はその中の一人だった。彼女らとはこの高校2年間でたくさん遊んだ。夏にはみんなで海へ行ったり、心霊スポットで肝試しをしたり、冬はクリスマスや年越しパーティーもした。2年になってクラスがバラバラになっても彼女らとはいつもと変わらず馬鹿をやっていた。
彼女に対して好意を持ち始めたのは一年生の時だ。体育祭で2人で二人三脚に出てそこからなんとなく彼女のことが気になり始めた。最初は息が合わず苦戦していたが、2人で練習を積み重ねるうちに僕の心は彼女に惹かれていった。
初めは一方的な片想いだった。
それまで彼女とは毎日くだらない事で言い合いばかりして 、みんなからは「また夫婦喧嘩してる」ってからかわれてた。僕が彼女のことを好きになり始めてからもこの関係は変わらず、彼女と話せているだけで幸せな一方、彼女との距離を縮められずモヤモヤしていた。
しかし、後もうすぐで一年生が終わる三月頃。お互い口には出さないだけで「好きだ」って言う気持ちはなんとなく察していた。
夏祭りに誘われたのは、昨日のこと。
放課後部活へ向かっている途中、彼女に呼び出された。彼女は誰もいない教室で一人窓際の自分の席で外を眺めていた。彼女が僕に気がつくと、いつものような元気な声ではなく、少し恥ずかしそうな声で「一緒に夏祭りへ行かない?」と誘われた。彼女は窓際で西へ傾く太陽の日差しを見ていたせいか顔を真っ赤にして、そんな彼女が僕にとって尊いと感じた。
彼女を待っている間心臓が爆発しそうなほどバクバク鳴っていた。いつも会う時とは訳が違く、今回は二人。それもお互い口に出さないだけで意識し合っている仲。
また僕はもう一つ大きな理由で緊張していた。
今日の夏祭りで彼女へ告白する。
今日まで念入りに計画していた。周りの人は「さっさと告れ」と言っていたがいつもタイミングを逃してばかりだった。そして、今回は絶好のチャンス。誰にも邪魔をされず二人だけの時間を過ごせる。
待ち合わせ時間の18時が近づくにつれ、僕は心だけでなく体もソワソワし始めていた。
そんな時、カラッカラッっと彼女の下駄の音がした。周りの音が聞こえなくなったかのように彼女の下駄の音が強調して聞こえていた。
「待った?」
走ってきたのか、頬を少し赤くし彼女が聞いてきた。
いつも下ろしている彼女の髪の毛は今日は後ろで結ばれていて、彼女の着ている涼しげな青い花模様の浴衣がとても似合っていた。
「なんか言いなさいよ!」
軽く頭を叩かれて、いつもと変わらない元気な声が聞けて内心ホッとしている自分がいた。
本当はそこまで待っていなかった。しかし、めちゃめちゃ待ったと彼女に伝えるか、全然待ってないと素直に伝えるか迷ったがいつもの感じで
「「めちゃめちゃ待った! 10分前行動は当たり前だろ?お前来るの遅いんだよ!」」
と冗談混じりに伝えた。
普段のような会話ができ、いつもの自分が戻ってきた。
「ところで女の子の浴衣姿を見てあんた何か言うことないの?」
普段の学校と変わらない調子で彼女が聞いてきたので
「「うん、すごく似合ってて可愛いと思うよ」」
と素直な感想を言ったが彼女は黙って恥ずかしがってしまった。せっかく普段通りの振る舞いをできたのに、僕たちの間にぎこちない空気が流れた。
そこから夏祭りは存分に楽しんだ。射的や輪投げ、金魚掬いに綿飴、焼きそば、祭りっぽいことは全て2人で回った。彼女が「あれ行こう!これ行こう!」と先導して行ったので、最初に感じた緊張感はなくなっていた。僕たちは楽しい時間を過ごすことができた。途中「イツメン」の残りの4人に会った、彼女らは何かを察したのか何も話しかけてこなかった時は妙に心臓が鳴った。
一通り回って「神様にお願い事しよ」と提案されて、参拝をした。僕は正直神頼みのことなんて忘れて彼女のことだけ見ていた。「彼女はいったい何をお願いしているのだろう、僕のことだろうか?」と考えていたら彼女と目が合った。彼女は僕と目が合うと照れながら微笑んで
「ちゃんとお願いしな」
と甘い声で言われて形だけした。
気がつけば夜の8時近くになっていた。8時からはメインイベントである打ち上げ花火がある。この時に僕は彼女へ告白しようと思っていた。僕は中々ロマンチックな考えでベタだかありだと考えていた。
しかし、8時近くになると流石に人混みも増え始め、僕たちはお互い逸れそうになっていた。何処で見るかはもう決めてあるけどせっかく二人で来たのだから二人で行きたい。
そう思っていたら自然と彼女の手を繋いでいた。彼女は嫌がる素振りもせず、黙って僕の手を握り返してきた。夏の夜、初めて触った彼女の手は、暖かく柔らかかった。さっきまで花火の時間を気にしていた僕の頭は彼女の手のことが気になっていた。
やっとの思いで目的地へ着いた。人通りがない小さな丘で花火が存分に見られる場所だ。前日、ネットで「 花火イベント 隠れデートスポット 攻略」と一生懸命調べた甲斐があった。着いた頃には花火は打ち上がり始めていた。とても幻想的で綺麗だったが、そんなことはどうでもよかった。
僕たちは近くに設置してあったベンチで座りながら花火を鑑賞していた。途中彼女は「綺麗」と感動して目を輝かせていた。
花火が打ち上がっている中、僕と彼女の手は繋がれたままだった。
僕の当初の予定では、花火の途中で告白しようと思ってたが、中々勇気が出ず最後に盛大な花火が打ち上がり花火は終了した。こんなんだったら変なこと考えてないで花火を見ていればよかった。
明るいものを見ていたせいか花火が終わった直後は辺りが真っ暗に見えた。隣の彼女はしばらく余韻に浸かっていたが、僕の心臓は彼女に聞こえてしまいそうなほど鳴っていた。おまけに手に汗をかき始め、彼女に嫌われないか心配だった。
「さぁ帰ろっか」
彼女がそう僕に言って立ち上がった時、僕は一緒に立ち上がって思い切って気持ちをぶつけた。
彼女が好きなこと
彼女と付き合いたいと
彼女は初めは驚いていたが
「私も好き」
「よろしくお願いします」
と言ってくれた。辺りは暗かったが、彼女の表情は嬉しいのか少し泣いているのが僕にははっきり見えた。
そして彼女は僕の目の前ですっと目を閉じた。
僕は、目の前で目を瞑っている彼女に向かってそっと口づけをした。
そこで僕はヘッドホンを取った。
時計を見ると、時刻は午後6時。
昨日買ってきた「恋を願えばカノジョはできるって!?〜夏祭り編〜」が今クリアした。前作の「体育祭編」は幾つか選択肢を間違えてしまったため、苦戦をしたが今回はうまくプレイできた。
このゲームは大人気恋愛シミュレーションゲームで通称「コイカノ!?」の名で知られている。キャラクターや設定などの人気からアニメ化やグッズ化などもされている。中でも今日僕がプレイした「彼女」はキャラクターデザインや人気声優の起用などからこのゲーム屈指の人気キャラクターだ。しかし、前回の「体育祭編」で製作会社と声優が揉めて次回作には出ないと噂が立っていたが、今回彼女の声が聞けて安心した。
今回のゲームはそろそろ30を迎える「彼女いない歴=年齢」の僕にとっては、少しきつい内容だった。
仕事もせず、不摂取な食事やまともに運動しなかったせいで最近下っ腹が出てきて、体が重いし暑いし全身に汗をかいている。コントローラーは手汗をかいて、Tシャツもベトベトだ。
蒸し暑い部屋の中、そろそろ限界を迎えクーラーのスイッチを入れた。
扇風機を止め、開けていた窓を閉めようとした時、ふと外から夏祭りにはしゃぐ人たちの声が聞こえた。
僕と彼女の夏祭り アシカ@一般学生 @ashipan
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