第64話御嬢瑞希の両親
「俺に花菜葛女子に行けって」
朝強制的にサラに起こされるサラはメイド服を着て部屋にやってきていた。
「ああ、お嬢様が弁当を忘れていってしまって。今は私も他のメイドや執事も忙しくて届けるのが少し難しくてな道自体はこのメモに書いてあるから辿り着くことはできるのだが。もし無理というなら時間を作って私が届けるが」
「いや届けてくるよ」
「そうか、なら頼むぞ」
手渡されたトートバッグにはランチボックスが入っており、サラから受け取ったメモを頼りに部屋から出て外に出る。
約一ヶ月振りに太陽の日光を浴びる。もうすぐ夏が始まる季節だった為、日光自体も暑くなっているようで着ていた服がじんわりと汗をかく。
メモを頼りに歩いて数十分で花菜葛女子前の校門に着くことができた。お嬢様学校な事もあり校門前には警備服を着た花菜葛女子の警備員と思われる若い女性が警棒を腰に下げて複数人に立っていた。
「あの……ここに通ってる御嬢瑞希さんって方に届け物があるんですけど」
校門前に立っている若い警備服の女性一人に声をかけてみる。
「御嬢瑞希さんに届け物ですか、身分証は……?私達には何の連絡もきていませんが」
怪しまれた、女性の警備員は少し目を細めてこちらが持っていたトートバッグに目を移した。
「もしかしてにいに……?」
校門を通り抜けようとしていた久遠とばったりと会ってしまい声をかけられた、時間帯は朝だが授業は既に始まっている筈だった。久遠の目をよく見ると酷い隈ができていた。
「城田さんの知り合いですか……?」
「はい、私の兄です」
「御嬢瑞希さんのご友人である城田さんの親族の方なら我々も安心ですどうぞお通りください」
「にいにこっち」
久遠に引っ張られ校門を通り抜ける。久遠はそのまま校舎に入ろうとはせずに校舎裏に連れられる。
「にいにこの二日間もどこに居たの……? にいにが家から消えて帰ってこないから私ずっと心配してたんだよ」
「御嬢瑞希から俺の事を聞いてないのか」
「瑞希ちゃんから? 何も聞いてない……」
俺は確かに昨日御嬢瑞希に久遠に心配しないでくれって伝えるよう言ったはずだが。
「もしかして瑞希ちゃんにいにの事を私に隠してたの……」
久遠は俺が聞こえない程の声で小さく呟いたので何を言っているのか分からなかった。
「それよりも俺ちょっと頼まれ事で御嬢瑞希の弁当を届けにきたんだけど、どこに行けば会えるんだ」
「今の時間なら体育だから教室にはいないよ、それににいにが持ってきたそれ私が瑞希ちゃんに届けてくるよ、だからにいにはここにいて絶対どこにもいかないでよ」
久遠はトートバッグを奪って校舎裏から校舎へと急いで入っていく
「おい、おい彰人」
どこからか呼んでいる声がする。キョロキョロと辺りを見回すが誰もいない、するといきなり物陰に潜んでいたサラが飛び出してきた。
「たく……心配で仕事を投げ出して追いかけてきて正解だったな。今すぐここを離れるぞ」
「いやでも久遠がここで待ってろって」
「いいから行くぞ。お前の妹にバレたのは面倒だし後々私が厄介事に巻き込まれるんだ」
サラがメイド服のまま現れ、俺の手を引っ張って校舎裏から離れる声をかけてもサラは止まらない。
先程通り過ぎた校門前にリムジンが停まっていた。サラに強制的に乗せられ、リムジンは走り出す。窓から久遠が校門に到着する姿が見えた。
「あれって瑞希ちゃんのリムジンだよね」
リムジンで御嬢瑞希の本邸に戻ってくる。本邸では忙しなくメイドや執事達が動き回っていた、リムジンの運転手もリムジンを降りて走っていく。
「そういえば朝から忙しいって言ってたし今日こんなに人が動き回ってるなんて何かあるの」
「ああ……今日は御嬢財閥の総帥もといお嬢様の父上と母上、
夕方御嬢瑞希が学校から帰ってきて早々、赤いドレスに着替えて部屋にやってくる。隣には軍服に着替えたサラが立つ。
「彰人様、そのタキシードとてもお似合いですよ」
先程執事達に囲まれ、強引に着せられたタキシードを御嬢瑞希は似合っていると答える。
「でも本当に俺なんかが家族水入らずの時間に加わってもいいのか」
「はい、お父様とお母様から彰人様とお話をしたいとずっと前から聞いていたので。それに今日はお父様とお母様が帰国されたパーティです。私達の他にも財界の人間が少々混じっているので彰人様の言う家族水入らずの時間ではないんですよ」
御嬢瑞希とサラに付いていき、本邸の外にある庭園へと到着する。
「みーずーきー」
いきなり御嬢瑞希の名を叫びながら体つきが俺よりも二回りは大きいタキシードを着た男性がこちらに向かってきて御嬢瑞希を抱き上げた。
よく見ればライオン程のたてがみをした黒髪に加えて目つきが鋭い、そして極めつけは顔である。それはまるでマフィアの首領を思わせる顔、しかも顔には無数の傷跡が見える。
「お父様、私ももう小さくないんですからそんなはしゃぐような真似はおやめください、ほら他の方々も注目されてますよ」
御嬢瑞希がお父様だと言った、俺は本当にこの人が御嬢瑞希の父親なのかと疑ってしまう
「何を言う私にとっては瑞希はまだまだ小さな子供だ」
「あなた、そろそろ止めなさい瑞希も困っているでしょう、それに御嬢財閥の総帥ともあろう方がそんな痴態を振る舞ってどうなさるんですか」
「お母様」
御嬢瑞希が呟く、この人が御嬢瑞希の母親か。庭園にいる男性全員が二度見する程の黒髪美人、黒蝶の彩られた和服を着て黒蝶の簪を身に着け、それはまさに大和撫子のような存在だった。
「お母様、お父様本当にお久しぶりです。」
「うむ、私も瑞希の元気な姿を見て安心したぞ」
「それで瑞希、そちらにいる隣の方が瑞希がよく話す例の彰人様ですか……?」
「はいお母様……こちらの方が城田彰人様です」
「そうですか、入学式では娘が大変お世話になったようで」
いきなり頭を下げて礼を言われてしまう。
「いや大分前の出来事ですよそれにそんなお礼を言われる程の事じゃ」
「ハッハッハ、黒蝶が頭を下げるのは気にいった人間にしかしない。彰人君もしかしたら君はまさに今黒蝶に気に入られたかもしれんぞ」
御嬢瑞希の父親にバシバシと背中を叩かれてしまう。
「総帥お久しぶりです」
「ああどうもどうも。それじゃあ二人ともまた後でじっくり話をしよう、今はパーティを楽しんでくれ」
「瑞希……少しの間二人で話でもしましょうか」
「はいお母様」
御嬢瑞希は母親と共にパーティ会場の庭園から少し離れていく、取り残された俺は暇を持て余したので庭園を歩き回り、庭園の道から外れて噴水がある場所へと出てしまう。
「あら……こんな所に人が来るなんてもしやあなたも抜け出してきたのですか」
そこにいたのは暗くても分かる程の長い銀髪に純白のドレスを着た、俺と同い年位と思われるの美少女が一人噴水のレンガに座っていたのだ。
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