第48話城田亜梨沙の心情

 

「……あ、彰人君……?」


「亜梨沙姉ちゃんか何か用」


「冬華さんの事残念だね……でも事故じゃ仕方ないよ彰人君のせいじゃないんだから、冬華さんを事故に合わせた運転手もすぐに捕まると思うから」


「実はさ姉さんと俺付き合ってたんだよ」


「え……?」


「俺何言ってんだろ。今の言葉忘れてそれじゃあ」


「ちょっと待って何処行くの!? 今から冬華さんの火葬だよ」


「はは、何処行くんだろう。父さんや母さんにも心配しないでって言っといて」


「……彰人君」


 あの時の私は彰人君に何も伝えられずにいた。

 ずっと大好きだった恩人でもある彰人君の背中を私は見送る事しかできなかった。


「君何してんの?」


「ダンスだよ私アイドルになるのが夢なんだ」


 小さい頃の私。

 この時おじいちゃんの家に初めて来た、来たくなかったのだがお母さんがどうしても大事な用事って言うから連れて来られた。


 だけど私はおじいちゃんやおばあちゃんに挨拶もせず大好きなアイドルの動画を観ながら踊る練習をしていた。その途中に声をかけられ振り返りながら答えた。


「へーアイドルになるのが夢って凄いね、俺ってそんな夢とか持ってないから憧れるな」


 この家の子だろうか、でもおばあちゃんの歳を考えたらもう子供なんて産めないんじゃ。


「お兄ちゃん、見っけ」


「げっ!? 隠れるの忘れてた……」


 女の子が突然現れる、お兄ちゃんということは妹さんだろうか。


「おまたせ亜梨沙、あれあなた達」


「あ!! いつもお正月に来るおばさん」


「久遠ちゃんおばさんじゃなくて」


「お、お姉さん……」


「はいよく言えました」


 お母さんが鬼の形相で女の子の体を持ち上げそのまま高く投げて受け止める。


「お母さん、お母さん。この子達誰?」


「そっか亜梨沙はお正月とか家で過ごすからこっちに来ないもんね。私の兄さんの息子さんと娘さんで彰人くんと久遠ちゃんよ。もう一人お姉さんがいるんだけど、今本を買いに出かけてるんですって」


「よろしく俺城田彰人」


「城田亜梨沙です」


「お兄ちゃんの妹の久遠です」


 久遠ちゃんは礼儀正しく頭を下げて挨拶をしてきた、私も頭を下げる。


「それじゃあ用事終わったし亜梨沙帰ろっか」


「う、うん」


 私は普段ならダンスの練習をしたくて帰りたがるのだが、この時だけは帰る事を拒否してもよかったと思う。


「どう彰人君と久遠ちゃんに会ってみて」


「どうって何が」


「初めてでしょ従兄妹に会うのは。彰人君も久遠ちゃんもいい子だと思うんだけど今度から帰省する時とかあれば会えるけど」


「……今度彰人君と会えるなら帰省してみる」


「もしかして彰人君の事気になるの」


「……別に」


 私はそっぽを向いて答えた。


 でもお母さんが尋ねてきた言葉は正しい


 私がアイドルになるのを夢見てる事を両親や小学校の友達に話しても皆信じてくれなかったり小馬鹿にするような戯言を言ってきたりしていたのに。


 けどあの彰人君は夢を持ってる事を凄いなとか憧れると言ってきてくれた初めてだったのだ人に褒められるのは。


 それからというもの私は夏休みや冬休みを利用して彰人君がおじいちゃんの家に遊びに来ている事を知るとすぐに帰省。


 けど彰人君は家族で帰省してきてるので妹の久遠ちゃんやお姉さんの冬華さんも一緒に帰省中だった。


「彰人夏休みの宿題終わらせたの」


「別に冬華姉さんに見せなくても終わってるよ、それより俺亜梨沙姉ちゃんと一緒にカラオケ行ってくるから」


「ちょ!! 二人で行くなんて駄目よ彰人と亜梨沙ちゃんの面倒はお母さんとおばさん……お姉さんから頼まれてるんだから」


「だったら冬華さんも一緒なら問題ないんじゃないですか」


 近くにカラオケなんて物はないので電車に乗っていくしかない。


 冬華さんがおばあちゃんとおじいちゃんに頼み込んでカラオケに行く事はできたが、目的であった彰人君と二人きりとはいかず冬華さんと久遠ちゃんも一緒である。


 私は帰省する度彰人君に創作ダンスを見せたり彰人君の前でアイドルの歌を歌ったりしていたのだ。

 彰人君はその度拍手や上手などの言葉を伝えてくれた。


 それを続けていくうちに彰人君に惹かれていく自分がいた事に気付く。


「彰人君今度私ねアイドルオーディション受けるんだ。それで……そのもしそのオーディションに合格したら伝えたい事があるんだ」


 カラオケの途中久遠ちゃんと冬華さんがデュエットを歌ってる途中に彰人君に伝えてみた、彰人君はそれを了承してくれた。


 後日念願叶ってオーディションに合格。だが夏休みも冬休みも返上でアイドルメンバー達と顔を合わせダンスに歌の練習をして彰人君に会えなかった。


 更に私を小馬鹿にしていた小学校時代の友達はアイドルになるやいなや家の電話にかけてきたり家に訪ねてくるなど迷惑な行為をしてきたのだ。


 そのせいもあってか私の頭はイラつき始め、久しぶりに会った彰人君の事を呼び捨てしてしまったのだ。


 正月休みの為親族も集まり中々彰人君と二人きりになれず伝えたい事も伝えられずにいた。


 結局彰人君の事が好きって言葉を伝えられなかった。


 しかも夏休みは初めてのLIVEがありその練習に時間を取られて彰人君と会うことはなく。

 やっと会えたと思ったらそれは冬華さんのお葬式であった、結局私は無力で彰人君の力にもなれなかった。


 だけどまさか今になって彰人君と会い二人きりになれる状況なんて考えもしなかった。

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