第17話愛刀天花のファン彰人は逃げる

 

 まあ正直一緒のテントで寝るってのは中々厳しい話だ、俺は寝不足のまま朝を迎えた。


「ふわぁぁぁ……」


 長い欠伸と共にテントから出ると、二年の男子生徒の先輩達がテント前に集まっていた。

 ……俺の眠気は吹き飛んだ。


「よう一年坊、ちょっと付き合え」


 一人の先輩に肩を掴まれる。


「いやー付き合えって、俺男と付き合うつもりないんで……ここで失礼しまーす!!」


 先輩には悪いが、肩を掴んでいた先輩を投げ飛ばし、先輩達はドミノのように倒れていくのを見て俺は全力疾走で先輩達から逃げる。


「待てぇ!! こらー」


 やばい、俺は追われる程先輩に恨まれる事なんかしていない。


 さっきのは仕方ない事だがそれ以外には身に覚えすらない。


「俺達の天使愛刀天花ちゃんと一緒に寝て、ただで済むと思うなよ」


 ……どうやら先輩達の恨みを買っていたようだ。


 これは捕まったら、殺されかねない、なんてたって、ファンを怒らせたら怖いからな。


 さっきよりも走るスピードをあげてようやく、先輩達の猛追から逃げる事に成功した。


「はぁはぁ……とりあえずここで一旦休憩」


 壁に寄りかかり息を整える。


「ふぅー。でここどこだ?」


 ハイキング場から全力疾走で逃げてたから、場所取りなんて把握してなかった。


 目の前に案内板があるので見てみると、ハイキング場まで二キロ先だった。


「まあここを真っ直ぐ行けばいいみたいだし、あと十分たったら戻るか」


 腕時計を確認した、一応集合時間が決められている為、あと十分はここにいても余裕だった。


「それにしても空気が上手い」


 俺達の学校が二日目の朝にする事は登山だ、ハイキング場から登り、お昼頃に降りてきて、そのまま次の目的地に移動だ。


 俺は今、今日登る予定の山のスタート地点に来ていたようだ、自然の空気は体にいいと聞くが本当のようだ。


「もしかして彰人様ではないですか?」


 聞き覚えのある声に彰人様と名前を呼ばれる振り返ると、そこには御嬢瑞希が黒服の大男を二人連れていた。


「なんで君がここに?」


「林間学校でこの山の登山をする事になっていたのですが、この二人が寝坊したせいで、私は置いてけぼりになってしまって」


「まさか林間学校の予定が被るとは、花菜葛女子ってお嬢様が多いのにこんな山に登るんだな」


「実はこれ久遠様が先生に直談判して決まったんですよ、山を登って自然を感じたいって言って。実行委員長としてこの林間学校の計画は全て久遠様がお決めになったんです」


「久遠が全部決めたの……?」


「はい、お時間があるならばご一緒に登るなんてどうですか、この前の告白の返事も」


「くっそー!! どこ行きやがったあの一年坊」


 どうやらまだ先輩達は追いかけるの諦めていなかったらしい。


「あっいた!! お前、さっきはよくも……」


 御嬢瑞希の後ろに立つ黒服大男二人を見て先輩達はだんだん声に威勢がなくなってきた。


 御嬢瑞希は話の途中の邪魔をした先輩達を彰人が見えないよう睨む。


「彰人様、邪魔が入ってしまったようです。告白の返事よい返事を期待しております」


 御嬢瑞希はニッコリと微笑み、後ろの黒服大男二人を連れて、山へと登り出す。


「一年坊、ようやく捕まえたぞ」


 さっきまで威勢がなくなっていた先輩達は、急に威勢が元に戻り二人の先輩に肩を掴まれ、ハイキング場に強制連行されていくのだった。


「よーしまだ集合時間まで時間はある、それじゃあ質問タイムといくか」


 先輩達に縄で縛られ、テントの床に座らされた。


「おい一年坊、お前の名前は?」


「城田彰人です……」


「なんで愛刀天花ちゃんと一緒のテントで寝ていた」


「友達が風邪を引いて、テントにうつっているかもしれないので別のテントに寝るよう担任に言われて連れてこられたのが愛刀天花のテントでした」


「愛刀天花ちゃんとは何もなかったか」


「いや、俺本当何もしてないですよ!! 今も寝不足のせいで寝たいし」


「どうするお前ら」


「何もなかったとしても、天花ちゃんと一緒のテントってのはな」


「一応これから監視して注意しとけばいいんじゃないか? もし何かあればすぐに殺ればいい」


「そうだな、一年の奴にも伝えとけ。城田彰人を監視してもし万が一があれば俺達の元に連れてくるよう」


 先輩達は俺の処遇を決めたようだ。


「よし城田彰人、今は見逃してやる。ただしお前を監視しているからな」


 俺は腕の縄を解いてもらい、先輩達のテントから出される、集合時間に学年主任、担任の元に集まる。


「それじゃあ今から山に登るが降りてくるのはお昼頃だ、荷物などはバスに置いておけ。持っていくのは携帯と水だけだ、山から降りてきたら、すぐに次の目的地に移動するからな」


 学年主任の指示の下、ハイキング場から歩き、山に登る地点まで歩いていく。


「彰人君大丈夫? なんだか顔色悪いけど」


 篠崎雪泉に声をかけられた、どうやら心配してくれているようだ。


「平気、平気。ちょっと寝不足と面倒くさいのに巻き込まれただけだから」


 監視するって言ってたから用心しないとな、そんな事を考えて先程まで休んでいた山に登るスタート地点に戻ってきた。


 これから山に登っていく訳だが、俺は実際この林間学校で生きて帰れるか不安になっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る