第11話彰人の過去椎名胡桃の告白

 

 俺が中学三年になって半年が経った頃、姉さんが交通事故で亡くなった。


 原因は久遠とたまたま出かけた日に居眠り運転をしていたトラックが突っ込んできて、久遠を庇った姉さんが事故にあった。


 姉さんは高校三年になってバイトもしていた、来年には国立の大学から推薦状が届くほど姉さんは優秀な人だった。


 俺は最初その事実が受け入れられず学校にも行かず、ゲーセンに通い、家にもほとんど帰らず、ネットカフェに住み込んでいた、家に帰れば姉さんの事を思い出してしまうので、帰る気になれなかった。


 父さんも母さんも心配してくれて携帯に連絡が来るが、俺は無視していた。


 ある日のゲーセンの帰り、ゲーセンの横にある路地裏に中学生女子が男に絡まれていた。


「あんた達こんな所でなにやってんの」


「ああ!! 誰だお前……っ!!」


 男は俺を見ると、女子を置き去りに立ち去っていく、ここで説明すると姉さんが亡くなった日から、ゲーセンに通いづめの俺は他にもケンカを吹っ掛けるようになっていた。


 さっきの男は俺がこの前ケンカを吹っ掛けた一人だった。


「大丈夫か? 男に絡まれたくなかったら、一人でこんな所に来ない方がいいぞ」


 俺は尻餅を着いてしまった中学生女子を立たせる、すると中学生女子は俺の服の袖を掴んだ、顔は涙を流していた。


「ごめんなさい、凄く怖くて」


「仕方ない送って行くよ。家はどこだ?」


 こんな女子中学生を夜遅く一人で帰らせる事も出来ず、俺は送って行く事にした。


「ここです、本当に送ってくれて感謝してます」


「別に礼を言われる程じゃないさ、それじゃあ今度からは絡まれたりするなよ」


 ここで女子中学生と初めて出会ったが、この時初めて出会ったのが椎名胡桃だった、それからこいつはよくゲーセンに入り浸るようになった。


「センパイ!! 今日もゲーセンに来てるんですか? よく飽きもせず、毎日ゲーセンに通えますね」


「お前もだろ。最近は毎日のように俺の前に現れるだろ」


 今日も格ゲーをしていて、こいつは飽きもせずに俺の隣の席に座る椎名胡桃。

 暇な筈なのに、いつも席の隣に座り、俺がやる格ゲーを眺めていた。


「クッソ!! また負けたー」


 俺と対戦していた、見知らぬ高校生は負けた事を後悔して別のアーケードゲームに行く。


「センパイ、次は私と対戦しましょう」


「嫌だよ、だってお前弱いじゃん」


「言いましたね、私もお姉ちゃんに教わりましたから強いですよ、負けたらなんでも言うこと聞いてあげますよ」


 椎名胡桃は先程まで高校生が座っていた、席に座り、格ゲーの対戦が始まる。

 一ラウンド目は俺の圧勝であり、二ラウンド目は椎名胡桃が厄介なコンボを繰り出して敗北する。

 三ラウンド目椎名胡桃はあと少しの所まで俺を追い詰めたが、最後のコンボを避ける事が出来ずに敗北してしまった。


「俺の勝ちだな」


「約束は約束です、なんでも言うこと聞きます、何をして欲しいですか。あっ……でもエッチな事は無しですよ」


「もう俺がいる時にゲーセンには来るな」


「……へっ?」


「ずっと言おうとしてたけど、お前が来ると正直迷惑だ」


「えっ!? でもセンパイ……」


 最近こいつと関わっていると、俺は変わり始めていた、ゲーセンにいる時一人でいるよりも楽しくなってきて、こいつと遊んでいる時は姉さんが亡くなった事を忘れる事が出来た。


 それが怖くなって、こいつと関わる事を恐れた。


「なんでも言うこと聞くんだろ」


 椎名胡桃は何も言わずに、立ち去っていく、あいつがゲーセンの出口に向かって行く時、一瞬だが涙を流しているように見えた。


「よぉ、最近は彼女と仲良くやってるのか?」


 あの時椎名胡桃に絡んでいた男が隣の席に座る、どうでもいいので無視して、立ち上がる。


「一つだけ言っとくぞ、お前の彼女だが拉致した」


 立ち去ろうとしたが男の胸ぐら掴んだ。


「おいおい、俺に手出ししていいのか、今居場所を知ってるのは俺だけだぜ、それに仲間がお前の彼女の傍にいる。俺が一本電話すればお前の彼女なんか仲間に犯されるぞ」


「何が目的だ」


「目的なんて決まってるお前に復讐だよ、あの時ケンカを吹っ掛けてきたのと、ナンパしていた邪魔をされたな」


 ゲーセンから近所で有名な不良高校に連れてこられた、運動場には、十人以上の不良と縛られて不良に捕まっている椎名胡桃がいた。


「覚えてるか? ここにいる全員お前にフルボッコにされて、屈辱を味わった」


「んー!! んー!!」


 椎名胡桃はガムテープで口を塞がれていた。


「ここにいる全員から一発ずつ殴られて立っていられたら、お前の彼女は解放してやるよ」


「彼女なんかじゃねぇよ」


「だったら、どうしてここまできた?」


「俺のせいだからな、早く俺との付き合いを辞めさせるべきだった」


「格好良いね、それじゃあ一発目は俺からいかせてもらうぜ」


 腹に一発殴られる、こんな弱いパンチじゃまだまだ余裕だった。


「そいつは俺に任せな、お前らもやっちまいな」


 椎名胡桃はとうとう泣き始めた、全員が殴り終わった時、俺は立ったままでいられた。


「ほう? ここまでやっても耐えたか」


「約束だ、そいつを解放しろ」


「残念でした!! 約束なんて嘘でーす!! こんな上玉の女解放してたまるか」


「おいおい……全員に回せるようにしろよ」


 不良達は椎名胡桃を囲む、椎名胡桃は暴れるが不良達には無駄な足掻きだった。


「こいつどうする?」


「ほっとけ、それよりも俺達も女の所行こうぜ」


 二人の不良が椎名胡桃に近づこうとした時、俺は怒りが抑えきれず、二人の不良を投げ飛ばした。


「なんだ!?」


「セッ……センパイ!!」


 不良達は何が起こったか分からずどよめいていた、椎名胡桃の塞いであったガムテープは外れかけ、椎名胡桃の服は脱がされる途中だった。


「に……逃げるぞ!!」


 不良達は運動場から全力疾走で逃げていた、だがそれは不良高校にやって来た警察のパトカーに止められる。


「な、なんで警察が!?」


「大丈夫か?」


 俺は残された椎名胡桃に近づき、縛られていた腕のロープを切る、椎名胡桃はロープを切るとすぐに俺を抱きしめた、俺は椎名胡桃の背中をポンポンと安心させるように叩く。


「怖かったです、もしセンパイが死んだらって思うと」


「はは、そんなに俺を舐めるな、これでも色んな格闘技を習ってたからな」


 城田彰人は小学生の頃にあった久遠の出来事がきっかけで格闘技を習っていた、それのおかげもあってケンカも強いのだ。


「でもなんで警察まで、もしかしてセンパイが呼んだんですか?」


「いや……俺じゃない、でも一体だれが?」


 あの男にゲーセンを出る前に携帯を奪われて、警察を呼ぶ時間すらなかったが、誰が呼んだんだ。


 警察から事情聴取で連れられ、警察署での事情聴取が終わると、父さんと母さんが警察署に現れたのだ。


「彰人ずっと心配してたんだぞ」


「でもよかった無事で」


 父さんと母さんは警察署で泣き出した、おいおい人目もあるのに。


「ごめん、ごめん。ほら俺なら無事だよ」


「にいに」


 久遠もその場に居合わせた、だが久遠は父さん達とは違い泣かずに俺の腕を確かめた。


「ケンカならしない方がいいよにいに、腕を痛めちゃう」


「悪いな、でも今回で最後になるよ、これで家に帰らなかったら、父さんと母さんもっと心配するだろうし」


 椎名胡桃とは別々に事情聴取を受けたが、警察署に椎名胡桃の姿はなくなっていた、俺は久しぶりに家に帰って、その日は家族皆で姉さんの墓参りに行った。


 結局椎名胡桃は次の日も駅前のゲーセンに現れ、俺との約束は無効だと言ってきた。


「でもあの時の警察は本当に誰が呼んだんだろうな、事情聴取の時、警察に匿名で連絡がきたと言ってたけど」


「私にもさっぱり」


 ここまでが椎名胡桃と出会い、関わった話だ、だが高校受験も始まろうとしていて父さんと母さんに高校だけは通いなさいと言われたので、俺は中学校にまた通いだした。


 久しぶりに会った翔也に心配をかけた罰として顔を一発ぶん殴られた。


 変わった事は駅前のゲーセンには通わなくなり、高校生になってこいつと再会したのだ。


「センパイ……」


「……ん、なん!?」


 突如椎名胡桃からキスをしてきた、一瞬のキスだったが俺の頭を真っ白にするのは十分だった。


「好きですセンパイ……私と付き合ってください」

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