『会計のいらない料理店』

やましん(テンパー)

『会計のいらない料理店』

  『これは、フィクションです。』




 『へいや、らっしゃい。やましんさん。』


 なじみのうどんやさんでは、ありません。


 初めて来ました。


 でも、人体登録により、来た人が誰だかは、相手には、すぐわかります。


 これは、食い逃げができない、という訳ですし、もし、良くない事件を起こしたら、すぐにお仕置きが来ます。


 殺人なんかだと、ネットですぐに仮裁判されます。


 文句がある場合は、申し立ては可能ですが、仮裁判だと、大概、多少罪が軽くなりますから、へたに申し立てしない方が、良い場合も多いです。


 スピード違反なんかは、やりたくても、仕組み上できません。


 まあ、ある意味、平和な社会なのです。


 政府の悪口言ったりすると、すぐ、ペナルティーが来ます。


 あまり、大したことのない場合は、テレビが一台無くなるとか、ラジオが一個消えるとか。



 しかし、なにごとにも、色々な問題は付き物なわけです。



 『なんにしましょ。』


 『すうどんさんに、あと、こんぶおにぎり一個。』


 『へい。すうどんさんに、こんぶおにぎり一個ね。500ドリムです。はい、めでたく、決算可能でした。ちょっと、おまち。』



 まあ、愛想はいいし、早いし、まずまず、おいしかった。


 また、来ましょうか。


 可能ならば。



 自宅に帰るのには、県道を歩くことになります。


 県道等歩行移動税を、取られます。


 10キロごとに、100ドリムです。


 自動車だと、300ドリム。


 バスや電車なら、歩行税は無料ですが、バス代が掛かるから、近いなら、歩いた方が安いです。


 自家用車だと、まあ、電気代がかかりますし、駐車場料金もかかる。


 自動車所有税は、月2000ドリム。


ばかにはなりません。


 なにか、政府から見た功績があれば、何かが多少増えます。


 貯金にあたる、ポイントとかですね。


 これは、わりに、ちょっとしたことで、ポイント500点とか、100点とかが、追加されたりします。


 たとえば、ネット上で、政府の政策を、うまく称賛したりした、とかでも。


 これが、大きなイベントならば、100万ドリムポイントだったりもしますが、そういいますものは、やはり、才能が必要です。


 しかし、ぼくの、当面最大の問題は、無職税です。


 半年以上無職だと、70歳以上になれば免除されますが、それまでは、月、5000ドリム取られます。


 税金や、公共料金は、生きてる限り、自動的に取られます。


 個人の財産は、鉛筆とか、消しゴムなどの少額消耗品は別として、テレビも、ラジオも、ドライヤーも、電気カミソリも、パソコンも、電話機なども、懐中時計も懐中電灯も、電気スタンドも、とにかく、大概みな税金の対象物になり、(不動産とかは昔から勿論ですが。)たとえば、おうどん代が、現金や、貯金で払えなかったりしたら、相当分のものを、もって行かれます。


 まあ、楽と言えば楽かしら。


 決算できない場合は、注文が成り立たないから、食べられないだけです。


 しかし、それだと、死んでしまうかもしれないですよね。


 もし、二回、支払い不能、すなわち、いわゆる不渡り出すと、すぐに、スローワークから紹介受けて、三日以内に採用決定になるか、もしも、ダメならば、当局の収容所に収監され、1年から5年の、強制労働ということに、なります。


 これ、かなり、厳しいと言われます。


 まだ、入ったことないけど、性格自体が、すっかり変わるとさえ、言われます。


 『国際連携連盟機構』からは、人権侵害と指摘されてますが、わが政府は、知らん顔です。


 で、すでに、半年仕事がないぼくは、所有物の財産価値がなくなると、ほんとは、強制労働行きとなるはずなのですが、『うつ的気分障害者』の診断があることから、執行猶予が付いているため、一年の猶予となります。


 だから、あと、半年の間に、就職しないと、あるいは、宝くじ当たるとかしないと、強制労働となります。


 70歳までは、あと5年。


 ところが、最近は、経済の、状態が悪いのです。


 だから、求人は段々すくなくなり、求職は、増えてきています。


 求人と、求職の関係を、新規の数ではなく、いま実際にストックのある量で比べる関係を、有効求人倍率と言いますが、現在は、この地域では、1.02です。


 パートや、臨時もふくまれてるので、実際は、さらにかなり厳しいです。


 第一、60歳半ばになり、なんの資格も技能もない、元気もないぼくを、だれが、雇用するでしょうか。


 あなた、採用者なら、どうしますか?


 若い方も、沢山いらっしゃるわけですよ。


 まあ、政府の、高齢者雇用の助成金はありますが、普通、一年間だけです。


 てなわけで、ちょっと、ぼくはピンチなわけなのです。


 

   ・・・・・・・・・・・・



 ま、世の中は、止まりませんから、来るべきときは、来るわけです。


 しかも、計算違いといいますのは、やっかいです。


 ぼくの、所有物の半分を、奥さまにもって行かれるのを、見落としていました。



 『えと。また、同じく、すうどんさんに、こんぶおにぎりで。』


 『あい。あらあ・・・・・やましんさん、現金ない?』


 『ない。』


 『そらあ、まずいよ。今日、不渡りが、にどめ、でてる。しかも、残額ぜろ。はやく、スローワーク行きなさい。』


 『むり。なんども、行ってます。』


 『あちゃー。よっしゃ。わかった。二週間、皿洗いで、雇う。一日二時間。一時間、最賃の最低、500ドリム。その間に、なんとかしなさい。』


 地獄で仏か。


 急激に、奈落に落下と、なったわけです。


 自宅も、凍結後、財産と税、人生後片付け費用、などとの相殺後、政府に没収となる可能性が高くなります。



 のんびりしていたぼくが、ばかなのよ。



 人生、最も長い、二週間が始まったのです。


 弁護士雇うお金はないよ。


 どうしようかしら。


 最終手段は、公認自決です。


 これ、無料なので、会計のいらない料理店みたいなものです。




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『会計のいらない料理店』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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