第14話
5人目の恋人 14
「ねぇ~兄ちゃん、下の毛って生えないの?」
風呂から上がった瞬間、突然始まったデリケートな質問。
性教育の一部ともいうのだろうか・・・9歳ともなると、そういう事に疑問を持つお年頃だなーと実感する。
来年高学年になるのだから、そろそろ必要な情報なのかもしれない。
大人の階段を昇り始める夢精イベントは、いつ頃だったかな・・・・とハリーの質問に答えずそんな事を考えながら、素っ裸で嫌々ダンスを踊っているポーの体をタオルで拭く。
「友達の兄ちゃんは、チンコに毛生えてたよ。何で兄ちゃんチンコしかないの?」
「・・・・・オレの股間事情は、心配ご無用だ・・・それにチンコしかないって言い方よ」
指摘されれば隠したくなる。
オレは体に水滴がついたままの状態で、ボクサーパンツを穿いてチンコを封印した。
「あのなぁ、人には体質があるんだよ。オレは元々体の毛が薄いんだよ。これはあくまで遺伝の話で、遺伝ってわかるか?」
「うん、DNAってやつでしょ?」
「オレの毛が薄いからって、お前がそうなるとは限らない。何せ・・・オレとは違う遺伝子が入ってるからな。オレとは肌の色も、髪や目の色も違うだろう?」
着替えを置いている場所からポーの着替えを取り出し、大人しくしてないポーに半場無理やり着せる。
その間も嫌々と首を振るが、オレも嫌だと同じ様に首を振ってみせる。
「じゃ〜、オレはすっげーボーボーになる?」
「凄いかどうかは解らんけども・・・・お前、いつから自分の事【オレ】って呼んでんだ」
以前は一人称が【僕】だったが、何故か【オレ】に変わっている事が引っかかった。
オレの影響なのかと思ったけど、さっきの友達の兄の股間事情とも関連している気がする。
何せ何にでも影響を受ける年齢だ。
以前友達家族とプールに行ったから、そこで何かしら感じ取ったモノがあるんだろう。
「パンツからはみ出るぐらい、ボーボーになる人もいる?」
未だ陰毛問題から頭が離れないハリーに、思わず笑ってしまう。
剛毛をご希望なのかと、疑うような発言だ。
「それは、生えてきてから悩め。ほらっさっさと服着て、ポー連れてけ。髪乾かしたら、アイス食べていいから」
この話は終わりだと、ハリーに着替えの服を押し付ける。
いつもならえ~~と不満を顕にする彼だが、「解ったよ」とどこか納得できない声のトーンで返事をし、いそいそと服を着始めた。
うん、アイスの威力は偉大だ。
「ほら、ポーもアイス食べるだろ?それとも要らない?」
「イルゥ!!」
やっぱりそこは素直に要るって言うんだな・・・。
大きく手を挙げてアイスを要求するポーに、笑いが込み上げた。
「なら、ハリーの言うことちゃんときけよ。ハリー、ポー用のアイスは解ってる?」
「うん、解る」
「4分の1しか食べさせるなよ」
「はーーい。ほらっポー行くよ」
着替え終わったハリーはポーの手を取ると、末っ子の歩幅に合わせるようにチョコチョコとした足取りで洗面所を出ていった。
さてと・・・オレも髪を乾かそう。
オレはささっと着替え終えると、洗面所の前に立つ。
そして仕舞ってたドライヤーを取り出し、コンセントにプラグを挿し込んだ。
「ねぇお兄ちゃん」
そこへ顔を出したのは品妤。
鏡越しに目が合い、オレは彼女の方へと振り返った。
「どうした?」
「さっきからお兄ちゃんのスマホ、通知音が鳴りっぱなしなんだけど」
「どれ?」
品妤が差し出してきたスマホを受け取り、画面をつける。
そこにはある通知が表記されていた。
新しく作ったSNSアカウントのフォロワーが・・・・・・
「え!?何だよ、この数」
お風呂に入る前に、2つのアカウントを作成した。
オレの分とエディのだ。
それがオレのアカウントには、既にフォロー通知が50以上もきていた。
「なぁ・・・これって全員フォロワー外せる?出来るなら承認制にしたいんだけど・・・知り合いとしか繋がりたくないんだ」
そう言って彼女にスマホを手渡した。
「出来るよ」
「それと、通知音OFFにしてほしい」
「解った・・・・ねぇどうして、今頃SNSを始めたの?」
「えぇ~~・・・と・・」
オレのスマホを操作している彼女を見つめながら、問いかけに思わず言葉が詰まる。
素直に言っていいものか・・・・内緒にしてても、アカウントを見られた以上今後の展開を知られるよな。
「人避けに、恋人が居るって偽造しようかなと」
「え!?」
スマホの画面から顔をあげてオレを見る品妤は、これでもかと言うぐらいに目を見開いている。
ごめんよ・・・こんな馬鹿な兄貴で。
なんて申し訳ない気持ちで、思わず情けない表情になってしまう。
「だって、知らない人に有らぬ噂されるのが嫌でさ・・・・」
「バンクさんとオタさんって人と?」
「う・・・・・」
「まぁその事については、余計なこと言わないけど。良いの?」
「何が?」
「お兄ちゃんに好きな人ができた時、後悔しない?」
それ・・・お前も言うの?
「いや、出来ないって」
「先のことなんて解んないじゃない」
「品妤まで・・・・」
「他の人にも言われた?」
「んー・・・」
「ならその人は、あ兄ちゃんのこと大切に思ってるんだね」
品妤の言葉が、心にズシンと響いた。
肉親の品妤がオレを大切に思ってくれてるのは解ってる。
けど別れてから3年以上経っているのに、未だエディはオレを大切に想ってくれているのだと知ったからだ。
ビデオチャットで彼の問いかけに「わかんない」とバカ正直に答えてしまった事を、今更ながら反省してしまう。
「ねぇ、友達のアカウントはフォローしないの?」
「明日するよ」
「バンクさんにも?」
「え・・・何で」
何でそこであいつの名前がでる・・・・。
家ではあいつの悪口ばかり口にしてたし、品妤と会ったのも一度だけだ。
彼女が何故そこまでバンクを気にするのか、解らない。
「だって病院に来てくれてたし、ハリーの買い物の時も一緒に居たんでしょ?」
「だからって、別に友達じゃないもん」
「ねぇ、バンクさんのSNS見たことある?」
「そんなの無いし、つ~か興味ない」
「ふ~ん・・・・」
何だろう・・・9歳年下の妹なのに、今の品妤は姉の様な風格を感じる。
オレを見る目が、まるで「本当にそれでいいの?なら別にいいけど、後で泣いても知らないわよ」と言っているようだ。
「・・・・何、あいつのSNSが何だよ」
彼女の勿体ぶる態度にまんまとヤラれたオレは、振り絞る声でそう切り出した。
そんなオレに品妤はニンマリと笑みを浮かべる。
あれ・・・これはオレの知ってる妹なんだろうか・・・
「バンクさん投稿の頻度は少ないけど、中学ぐらいからSNSはしてるの」
「それ・・・遡って見たのか?」
オレの妹が怖いんですけど・・・
それともこれってSNSする人は普通のことなの?
「だって何かとお兄ちゃんの口から出てたから、お金大好き君って。会う度喧嘩になるって珍しいから、どんな人かなって」
「そう・・・・それで?」
「家や家族に関わる投稿が一つもないの」
「・・・・・・それだけ?」
「それだけって、気にならないの?」
「いやだって、もしかしたら施設で・・・いや・・・」
確か彼の父親は外交官だった。
以前セミナーで講師として呼ばれて来ていた時にメイトが見かけたらしく、バンクに似たイケオジだったと言っていた。
そんな実父が居れば、自慢したさにSNSにあげるだろう。
そういうオレの今の父親は、3つの会社を経営している取締役社長。
他国にも子会社を営み、バンクの父親よりは裕福なはずだ。
だからと言って、血の繋がりもない父親を自慢したいとか一切思わない。
ましてや本当の母親であるあの女も、隠し通しておきたい汚点だ。
男に媚びへつらい、次から次へと乗り換える股の緩い女。
それでも金が無い男には一切近付かないあたりが、目当てが男じゃなく金なんじゃないかと疑ってしまう。
あんなのが母親だなんて、恥もいいところだ。
自分の為にも、弟達の為にも隠し通さなくちゃ・・・
だけどバンクの親は実父でありながら、大学の講師に呼ばれるぐらい社会的信用と地位のある人間。
なのに何で、SNSではその事に触れないんだろう。
彼にも・・・人には言えない家庭の事情でもあるんだろうか。
「私達みたいに、家のこと伏せたいのかもしれないよ?両親と折り合いが悪いとかさ」
「我儘し放題なのにか?あいつの車なんてポルシェだぞ?あんなの大学生が乗る車じゃねぇーよ。どんだけ親の金で好き勝手やってんだか」
こっちだって父親に金を無心すれば、即日大金が振り込まれるだろう。
だがそんな馬鹿なことはしない。
両親がタイを離れる時、オレが提示した金額を毎月振り込んでもらっている。
それは生活費と学費、そして予備のお金。
予備のお金は、弟達の貯金に回している。
それは、父親が他人になった時の保険としての蓄えだ。
オレが収入を見込める会社に就職して、弟達を養えるようになるまでの保険でもある。
出来るだけ蓄えを増やすためにも、生活費を切り詰めて必要以上の贅沢はしないように心がけてる。
学生の身でありながらお金の事で頭を悩ましてるオレと、親の金で贅沢三昧しているバンク。
やっぱり俺とあいつとでは、相容れないのかもしれない・・・・
「そんな悪いところばっかり見ないでよ。お兄ちゃんがいつも私達に言ってるでしょ?相手の悪いところよりも、良いところを沢山見つけろって」
「・・・そうだけど・・」
「お兄ちゃんを病院まで運んでくれたし、差し入れだって持って来てくれた。それにハリーもいい人だったって褒めてたじゃない」
ハリーが言うことは、あいつの主観でしかない・・・。
だけど、確かに病院の件は頭が下がる。
オレが大泣きしたことも、家族のことも言い触らしてなかったし・・・・それを盾に脅しもしてこなかった。
「これからはお兄ちゃんも、バンクさんの良いところを見つけていけばいいのよ。絶対誤解してるところもあっただろうし」
「んーーーー」
「お兄ちゃん、返事は?」
「はい」
12歳の妹にアレコレ言われるって、本当に情けない。
ただ彼女が言ったことは、常々オレが弟達に言ってることだ。
見本とならなきゃいけないのに、バンクと出会った時から愚痴ばかり言ってた自分に今更ながら反省する。
今日二度目の反省だ。
それにバンクに対しては、顔を見ても前みたいに嫌悪感はない。
ただ・・・どう接していいのか戸惑ってしまう。
オタに弁当を渡した時チラリと見た彼は、俺と同じ気持ちのような感じがした。
普通に声をかけていいのか・・・けど以前のこともあるし、急に馴れ馴れしくするのも抵抗がある。
だから相手がどう出るのか、お互い窺ってる感じがした。
「ねぇお兄ちゃん、さっきのフォロー通知の中にオタさんいたみたいだけど・・・外していいの?」
「え?」
「ほら、これオタさんでしょ?」
品妤が向けてきたスマホの画面を覗き込むと、確かにアイコンの自撮りはオタで間違いなかった。
何事もないのならフォローされても問題ないが、例の騒動のせいで躊躇してしまう。
オタと繋がることで、また要らぬことを言われてしまうんじゃないかって・・・
「恋人偽装するなら、問題ないじゃないの?」
品妤があまりにも的確な返事を口にしたもんだから、オレは心の声を口に出したのかと狼狽えた。
「お弁当渡すぐらいの仲なのに、繋がってない方が変だと思われるわよ」
「!?何で弁当の事知ってんの!?」
「オタさんの写真投稿で知ってるよ。【また食べたいぐらい、物凄く美味しかった】ってコメント添えてたよ」
「そ・・そうなんだ」
わざわざ写真投稿して、感想まで書いてくれてるとは・・・・知らない所でのオタの行動にちょっと喜んでる自分がいる。
いや、ちょっとどころじゃないかもしれない・・・
また作ってあげることは出来ないけど、せめてフォロワーは外さずこのままでいいかなと思えた。
続く
この家の中で一番精神年齢が高い品妤。
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