人殺しと犬

柳なつき

第一章 人殺しと犬、同級生になる

私は人殺し

 人殺しをしたこと。異常な家庭で育ったこと。

 そのふたつを除けば、私はごくごくふつうの高校生だ。


 と、いうより。ふつう以下、かもしれないけれど。

 学校ではいつも地味。ひとと視線を合わせたくないから、前髪を伸ばして視界を隠している。顔のあたりも隠したいから、長い髪を縛らずにいつも流している。

 いじめられたり無視されたりということはないし、クラスではむしろ気を遣ってもらえているけれど、みんな、私というクラスメイトの扱いに困っている。毎日学校で暮らしていれば、ひしひしとそう感じる。

 私みたいな人間がいるときっと、青春がやりづらい。クラスで一致団結とかもできないし。皮肉でもなんでもなく本心から思う――いつも気を遣ってくれる優しいクラスメイトたちには、ぜひ楽しく青春を謳歌してほしいから、ほんとうは私なんかがいないほうがよかった。


 そう、私なんか、いないほうがよかった。

 学校に限った話ではない。最初から。そもそもが。もともとが。存在が。

 私という、存在が間違い。

 この手が人を殺した感触をいまでも覚えている。あの家庭で見てきたことをいまでも覚えている。

 私はきっと、呪われている。

 だから――いないほうが、よかったんだ。よかったのに。


 ……どうして私はいまもこうして、生き続けているのだろう。

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