生きる

雨深 優

第1話 なみだ

人は悲しいと涙を流すと言う。

人は嬉しいと涙を流すと言う。

人は感情的になると涙を流すと言う。

涙をを流すその理由は本人にだって分からない。

分からないから泣くのだ。

分からず、途方にくれてどうしようもないと吐き出すのだ。


泣いて居れば誰かがそっと声をかける。

「どうしたの?」

その言葉に人は救われることがよくある。

やっととそう言われたから。

と優しく語るから。

人はそれだけで救われるのだ。


大抵そう言う人はなんだって聞いてくれる。

つまらない事でも、重い話でも、嫌な話でも、苦しい話でも。

なんだって聞いてくれる。

それが一番あたたかい。

その時にそっと寄り添ってくれるその人は紛いもなく大切な人。

その温もりが大事なのだ。

言葉は難しいから寄り添って、ただ側にいて温もりをくれる。

人。


「なんで」だとか「そんな事で」だとかそういう言葉を選ぶ人はきっと自分に詰まっている人。

実はその人自身が泣いていたりする。

見えない所で心の奥で涙がポツリポツリと落ちている。

きっとその言葉は自分にかけてる言葉だから。

泣かないように、厳しく、厳しくって自分に言い聞かせるように言葉を選ぶ。

本当は人。


無視をする人は自分も他人も人。

面倒事は避けて、自分も捨てて他人にも関わらず生きている。そんな人。きっと上っ面はいい。

だけど、心に入って行こうとはしないし、出来ない。

自分を知らないから。吐き出すことも出来ないから。一番難しい人。


けど、どんな人もやっぱり泣く事はあって、自分はどうもしてないぞって人でも夜にひっそり泣いていたりするものだ。

寄り添う人に、成れない人はいない。

苦しむ人に成らない人はいない。

分からない人にはみんな成ってしまう。


形はどうであれ、人はみんな泣いてて、みんな助ける人間に成れる。

不器用でも、それが助けにならないとしても、そばにいるよってそう思わせてくれるのはとても、


俺は/私は、君を見てるぞって、君を気にしてるよってそう言ってくれるだけで、人は安らぐものなんだ。

分からないよって、何も、分からないんだって涙を流すとき、誰かに想ってもらえるって大切なこと。

弱音を吐いて、涙を流して、それでも大丈夫だよってきっと心の中で言ってくれる。

そんな人。

もちろん、会って、話して、聞いてもらうのはとても暖かいけれど、自分は一人じゃないんだぞって思えることが一番大切で、一番


人はみんな泣いててみんな助けを求めてる。


僕は泣いてなんかないぞって思うかもしれないけれど、小さなところで悲しみが、寂しさが、苦しみが涙を呼んでいる。


なみだになって落ちるのは悲しさや寂しさや苦しさじゃない。

不安が溢れているんだ。

悲しいから。

寂しいから。

苦しいから。

不安で仕方なくなるんだ。

ほかの感情だってもしかしたら涙を零すかもしれないね。

不安が、そっとあふれかえったそれが涙。


自分にはわからない。どうしていいかわからない。不安ってそういうものだ。

だからこそ、人は一緒に生きているんだろうよ。


人は人と生きていくんだろうよ。


彼の不安は彼女がなだめて、彼女の不安は彼が掬い上げる。


人は係わりあってその存在を認め合って生きていく。


悲しみもする。

寂しくもなる。

苦しみもする。

つらくもなる。

恐ろしいことだってあるし、憤ることもある。


いろんな感情にいつだってふあんはついてくる。


涙も、不安も、悪いものじゃない。

人と人との関係の架け橋になっている。


寄り添って、想いを信じて、不安なみだを乗り越えて人生を歩んでいくんだ。


人は暖かい。冷たい人間なんか、この世にはいないのさ。


みんな涙を流して、みんな一緒に生きている。


人間は鳴かない。人間は泣くんだ。


一生懸命泣いて、歩いていくんだ。


一人じゃなみだは止まらない。

自分は自分の暖かさを感じられないから。


ぬくもりがなみだを止めてくれる。

ひとがなみだを止めてくれる。


いくらでも、泣いていいんだよ。




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生きる 雨深 優 @NeruAdveana

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