砂漠と太陽と、世は情け。

@kabakox

第1話 エジプトあたり編


旅行の話を教えてと

時々言われるので書いてみる。


昔、旅人だった。

あちこち貧乏旅行をしていた。今から25年くらい前、ノスタルジック90'sのお話です。


22歳の時、エジプトに行った。

思いのほか、物価が高くて、

旅行資金が旅の途中で尽きかけた。

困った。


当時は、学生だったので、

クレジットカードなんて持っていなかったし

(20年以上前の話である)、


携帯電話とかメールなんかも普及してないから、

簡単に送金してもらうわけにもいかない。


マーケットで仕入れた素材を使って、

天丼を作り、旅行者に「ベントー」と言って売りさばいた。

3日ぐらいやったら、元手10ドルが30ドルになった。

30ドルを持って、カイロのカジノに行った。


とりあえずブラックジャックのテーブルに行った。

ブラックジャックぐらいしかルールを知らなかったから。

黒いネクタイをした、若くてイケメンのディーラーが、

「この貧乏人、何しにきたの?」と言う顔をして、こちらを眺める。

お金がないので、そんなことにはひるんでいられない。

貧乏丸出しで、1ドルかける。

私の必死な顔を見て、

ディーラーが、

うっすら笑みを浮かべた。

勝ったり、負そうで勝ったり、勝ったり勝ったり。


あっという間に、30ドルが600ドルになった。

たった600ドルと思うかもしれないが、

20年位前のエジプトでの600ドルは結構使い出がある。

飲み物一杯で粘りながら

チマチマと

私は勝ち続け、

30ドルが

800ドルになり、

このままいけば

1000ドルも夢じゃないかも!?

そう思ったとき

カードテーブルに別のお客さんが座った。

個人的な感覚の話で恐縮だが、

急にテーブルの温度が下がったというか

空気がピリピリっと震えた。

見たら

ディーラーはもう笑っていなかった。


そこから

勝てなくなった。


数分で

私は悟った、


運がいいとか

ブラックジャックが得意とか

そんな事じゃなく


ああ

このディーラーは私が必死そうなのを見て

勝たせてくれていたんだ


と。


600ドル

握って外へ出た。


席を立つ時

ディーラーがウインクしてきた。

「次は負けませんよ」

と言われた。

心の中でありがとうと唱えた。


こうやって

しばらくの軍資金は手に入れた。

カイロにいるのは

もったいない。

どうせ安宿にいるのは

マリファナを吸ってぼーっとしている

沈没者ばかりだし。


次の日

カイロを発って

シナイ山に向かった。


モーゼが十戒を授かったという山である。


シナイ山は

荒れ果てた岩山で、

登るのは結構大変。


なのに山頂に着くと

日本人だらけだった。

日本語の賛美歌に包まれて

御来光を拝見。


なにか腑に落ちない気持ちで

旅のコマを進める。


とある港町に着き

行く先がアラビア語だったから

適当に指指して

代金を支払い

フェリーに乗り込む。


…ヨルダンについてしまった。


VISA持ってないのにね。

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