第3話 新しいメイド
「あなたね~、そんな事言って、手抜きしていたら、敵増やすよ~!」
メイド長が坂元を睨み付けた。
「えっ、皆さん、まもなく解雇されるかも知れないのだから、敵も何も......」
「誰よ~、こんな新人雇ったの?私達の首を繋ぐどころか、クビにさせる気満々じゃないの!」
余裕の表情で台所を見渡している坂元を絶望的な気持ちで睨み続けたメイド長。
「まあまあ、そんな人聞き悪い事言わないで下さい。謎解きなんて、楽しそうだし、私も喜んで参加しますから!で、何しましょう?」
屈託の無い笑顔をメイド長に向けた坂元。
「そんなヘラヘラ頭で、御主人様の謎解きは、そう簡単に解けないよ~」
「謎解きの問題は、いつ提示されました?御主人様は、さっき、『あの人が冷たい』としか言ってませんでしたが......」
それだけで、使用人達があくせく探し回っている事を不思議でならない坂元。
「その言葉が謎解きの問題なの!私らは、その『あの人』を制限時間内に見つけ出さなきゃならない!」
「『あの人』って?奥方様は、お亡くなりになられたのですよね?愛人とかが、お屋敷のどこかに隠れているという事ですか?」
老紳士が男やもめである事は、就職の面接時に耳にしていた坂元。
「御主人様がああなってしまったのは、奥方様が亡くなってからなの」
溜め息を1つ大きくついたメイド長。
「ああなってって......認知症ですか?奥様に先立たれた年配男性に多いようですね」
「あなたって人は、失礼極まり無い人ね!御主人様は、ボケてませんよ!ただ、孤独感を埋める為に、物を擬人化する癖が発動してしまっただけ!」
擬人化......とは?
坂元が、聞き慣れない言葉に頭を悩ませた。
「あっ、もしかして、『あの人』って、人間ではないって事ですか?」
「そう、その『あの人』の正体を解くのが課題なの!残すところ、時間はあと1時間45分!!あなたも、『あの人』を探して!今回は冷たいだから、冷たいのを連想出来るものが正体って事!」
「私は、どの辺を探しましょう?」
そう言われて、メイド長は、改めて坂元を見た。
「そうね......あなた、まだ若いから、御主人様に御一緒して」
「えっ、若くは無いですが.....」
と言いかけたが、口籠った。
若いなどと言われたのは久しぶりだった坂元。
50をとうに過ぎた坂元が若いと言われるほど、確かに、他の使用人達は全員老いていた。
メイドの募集欄にも、
『50歳以上、かつ閉経後の女性のみ』
と限定されていたのを思い出した。
跡取りの出来なかった奥方からの希望を、奥方亡き後も守り続けているという事に心打たれた坂元。
「私ら古株には、御主人様は、あまり話さなくても、若い新人には興味津々で、口も軽くなりそうだし。ヒントとか分かったら、独り占めせず、グルーブラインで知らせるように!」
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