カイの怪々冒険譚~ハズレスキル<装備変更>の荷物持ち、ダンジョンの奥で見捨てられるが魔族に拾われて最強になる~
炙りサーモン次郎
01章 荷物持ちカイ、最強になる
001話 カイ、見捨てられる
何者にもなれなかった人間は、手に入らなかったものを追い求めながら、残りの人生をみじめに生きていくしかないのだろうか。
「どうして、こんなことになったんだ……」
自分の口から思わずこぼれた言葉に驚きながら、俺は慌てて自分の口を塞いだ。
そして、ゆっくりと周囲の様子を伺う。
深い森の中、あたりに立ち込めるのは不気味な静寂。
草木の葉が擦れ合う音も、魔物の鳴き声も聞こえない。
音を立てないように、ゆっくりと地面に耳を当てる。
地響きにも似た、巨大な化け物の足音も、今は聞こえなくなっている。
それでようやく、
──もしかしたら、生き延びられるかもしれない。
心の奥底に、わずかな希望が湧いた。
だが、動転していた頭が落ち着いてくるにつれて、その希望もあっさりと消えていく。
街まで無事に帰れるはずがない。
なにせ自分は、ダンジョンの奥深くで、一人置き去りにされてしまったのだ。
胸中に渦巻く感情は、悔しさと情けなさ。
ああ、きっと俺はここで死ぬのだろう。
それが、冒険者に憧れて故郷の村を飛び出した哀れな男──カイ・リンデンドルフの末路だ。
今度は落胆のため息を吐きながら、俺は数刻前の出来事を振り返った。
■□■□■□
俺は<
たかがCランクと思われがちだが、これでも辺境の街だと実力は上位のほうだ。
普段から<
慣れきった、いつもの仕事。
何も問題がない。そのはずだった。
それは、いつものように俺が魔物の死骸から剥ぎ取りをしている時のこと。
「おい、まだかよ! さっさとしねぇと、また報酬を減らすぞ! このノロマのチビガキが!」
そう怒鳴るのは、<
いつものことなので気にしない。
俺は「すみません」と心にもないことを言いながら、作業を進めた。
「まあまあ、リーダー。役立たずのこいつの、数少ない見せ場なんだ。せっかくだから応援してやりましょうぜ」
薄笑いを浮かべながら、パーティーメンバーが俺を
「よっ、カイ! 俺たちが命がけで倒した魔物の死体を漁って稼いだ金で食うメシは美味いのかー?」
「ぎゃはははっ! 言ってやるなよ! スキルにも体格にも恵まれなかった無能のチビは、こうやって死体漁りするぐらいしか、やれることがないんだからなぁ!」
何が命がけだ。
魔物が現れたら、真っ先に俺を
だが、直接戦っているわけでも、何か能力で戦いを支援しているわけでもないのは事実なので、何も言い返せない。
それを悔しいと思わなくなったのは、いつからだったか。
俺も剣や魔法で活躍したいという憧れは、もう消え失せてしまっている。
「うっ……くさ」
不快な悪臭が鼻をつく。
素材の剥ぎ取りの時にはよくあることなので、俺以外のパーティーメンバーは倒した魔物の死骸からは少し離れている。
俺はもう、ずっとこんな暮らしをしていた。
このパーティーでの俺の役目は、荷物持ちだ。
それも、倒した魔物から売り物になる部位を剥ぎ取って持ち帰る、きつい・汚い・報酬低いの3つがそろった、誰もやりたがらないような役目。
本来であれば、体を張って戦う前衛よりは安全とされているが、このパーティーに限っては、それもない。
「おいおい、どうしたー? そんな働きじゃあ、次は守ってやれねえぜー?」
「ぎゃははっ、お前がカイを守ってることなんて、一度でもあったかー?」
こいつらは普段、魔物が現れると俺を最前線に突き飛ばすのだ。
怯える俺をからかうためにやっているのが半分。
そして、うっかり俺が死んでも別に構わないというのが半分だろう。
ともかくそんな感じで、いつものように剥ぎ取りをしている俺に、他のメンバーが
人を
誰もが何事かと振り返り、そして絶句した。
誰も見たことがない、大きな雄牛の魔物がそこにいたのだ。
「GRUUUUUUUUU……」
家よりも巨大な体躯に、威風堂々と伸びる2本の洞角。
危険を伝えるはずの
慌てて前に出ようとした
魔物の正体に気づいた
街では上位の実力に入るCランク冒険者たちは、その魔物に出会っただけで戦意を喪失したのだ。
それは伝承に語られる、<災厄の魔物>が一柱だった。
「カイ、お前があの化け物をひきつけろ! どうせお前が死んでも、誰も困らねえんだっ!」
そう叫んだのは、リーダーの<大斧のドズルク>。
ドズルクは叫ぶやいなや、俺の背中を蹴飛ばした。
蹴飛ばされた俺の体は、勢いよく地面に倒れ込む。
起き上がったときに俺が見たのは、こちらを睨む雄牛の魔物と、自分を置き去りにして一斉に逃げるパーティーメンバーたち。
「みんな待ってくれ、助けてくれっ!」
「諦めな! せいぜい時間を稼いでくれよっ!」
俺の懇願を気にもとめず、<
俺は、自分が見捨てられたんだと気づいた。
「ふざっ……けるなよっ……!」
悪態を付きながらも、俺も急いで逃げ出す。
魔物が俺の実力でかなう相手じゃないのは、ひと目でわかった。
だから、生きるために逃げた。
追ってくる魔物の気配を背後に感じながら、無我夢中で走った。
どこをどう走ったのか、もう分からない。
そして身を隠すのに丁度いい物陰を見つけ、そこに体を滑り込ませた。
じっと息を潜め、魔物の気配を感じなくなって、今に至る。
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