屋根裏の男
私がそれに気が付いたのは10日ほど前の事だ。
妻は浮気をしている。
しかも男を夫婦の寝室に引き入れているのだ。
男をベッドに誘い入れ、抱き合った後に何食わぬ顔で私を迎えるのだ。
「帰ったよ!」
「あら、今日は早かったわねえ。何か冷たい物でも飲む?」
「うん、飲ませてくれ・・」
・・今日はわざと早く帰ったんだ・・
・・男を返す時間の余裕は無かったはずだ・・
私は居間のソファーに座ると天井を見上げた。
・・そこに居るのか・・
・・天井の隙間から俺を見下ろして笑っているのだろう・・
妻がコーラを持ってくる。
「今日は暑かったわねえ。」
「うん、暑かった・・」
「今日は何時もより早かったのね?」
妻はいつもと変わらず優しくて可愛い。
「京子、最近仕事が忙しくて・・お前をほおって置いて済まないと思っているんだ。本当にご免な・・」
「だって、あなたも私も仕事が忙しいんだもの、仕方がないでしょう。」
・・屋根裏の男は二人の会話を聞いている筈だ・・
・・それならば聞かせてやろう・・
「俺は京子と別れる気はないからな。お前に男が出来ても、それは浮気心だから許すよ。おれは涼子を他の男に渡す気はないから。」
「本当にそう思ってくれてるの?嬉しい。」
涼子は俺そばに来て俺に抱き着いてくる。
俺は涼子を受け止めてキスをする。
俺は天井を見上げて男に言う。
「見ているか?涼子は俺のものだ!お前との事はほんの浮気心だ。京子は絶対お前のものにはならないからな。諦めて帰んな!」
「ちょっと!あなたどうしたの?!誰に話しているのよ。」
「誰って、お前の浮気相手だよ。天井裏に隠しているのは解っているんだ。」
「え?天井裏?ここはアパートだから天井裏なんてないよ。え?ちょっと・・」
・・妻が動揺している・・
「だから、怒ってないから・・ほおって置いた俺が悪いんだ。」
「そうじゃあないよ。この部屋に天井裏は無いのよ。あなたどうしたの?何か変だよ。私は浮気なんてしてないし、男を天井裏に隠したりしないよ。ねえ、大丈夫なの?」
・・天井裏が無い?・・
・・そうか、そうだった・・
・・それじゃあ、外に逃がしたのか・・
「ああ、そうだったね。天井裏はなかった・・そうだった。」
「大丈夫?私、浮気はしてないからね。信じてよ・・」
「解ったよ・・」
解ったよとは言ったものの・・
先日、俺は京子の浮気相手に会ったのだ・・
電車の中だった・・
奴はわざとらしく俺と対面の席に座ったんだ・・
雑誌を取り出して・・
雑誌を読むふりをしながら俺を見てニャついていた。
『京子は俺のものだ、もう何度も抱いたんだ。』
奴の心の声が俺にそう言っていた。
俺を馬鹿にしたように・・
必死で笑いを堪えているのが分かったんだ。
アパートに帰ると部屋には男の匂いが残っていた。
ベッドも乱れていて・・
そこで京子を抱いたのが分かったんだ。
だからそれを確かめたくて 今日は会社を早退して早く帰ったんだ。
だから京子は慌てて男を天井裏に隠した。
男は屋根裏から間抜けな俺を見下ろしてニヤついているんだ。
『京子は俺のものだ、もう何度も抱いたんだ。』
男の心の声がはっきりと聞こえた。
しかし、天井裏は無いのか・・
そうか・・
天井裏は無いのか・・
天井裏は無いのか・・
天井裏は無いのか・・
男の心の声がはっきりと聞こえる・・
『京子は俺のものだ、もう何度も抱いたんだ』
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