家持

ともかく彼の言い草が気に食わない。家持じゃあないと話にならんと言う。アパートなんてあんな物ヤドカリだと見下すのだ。いくら自分が家持だからってそんな言い草は無いだろうに。まるで私なんかホームレス扱いなのだ。

実際この都会で家持なんてどれほどいるだろうか。ほとんどの人が宿借りだと思うのだが、違うのだろうか。だいたい今時家持を自慢するなんて良識を疑ってしまう。


彼は言う、

「そもそも家を持たないなんて病気だよ正常な人なら普通は家を持っているものだ。」

「それは言い過ぎじゃあないか? 家持ちじゃあ無く生まれてくるものも沢山いるんだよ。」

「だから、それが異常なんだよ。いや、病気だと言ってよい。」

「病気?それは違うだろう! 病気なのはお前の方だよ。」


家を持たないだけで病気扱いとは驚いてしまう。

私は反論した。

「我々は家を捨てて進化したんだよ。いつまでも家に拘る君たちの方が進化に取り残されたんだ。遅れた生き物なんだよ。」


すると彼はブチ切れてこう言い放ったのだ。

「煩い!ナメクジのくせに! お前らは家をなくしたホームレスなんだよ!我々カタツムリこそが正しい姿なんだよ!堕落してナメクジになったくせに!」


見解の相違とはこの事だ、カタツムリが進化してナメクジになったのだ。その事は生物学会でも常識だ。殻だけではなく頭まで固いのがカタツムリたちなのだ。私は議論しても始まらないので黙ることにした。どこの世界にもいるものだ、過去の名声にすがりいつまでも威張る奴が。しかしナメクジはおろかヤドカリまで馬鹿にするとは、どうしようも無い頑固者だ。


私はナメクジ界の代表として、カタツムリとの平和共存の話し合いに来ているのに、こんな事では諦めて帰るしかないのかと、ただ失望し黙るしかなかったのだった。






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