第13話 ”生”への渇望

生まれたてから今の瞬間まで脳内で人生の軌跡が再生される


(あぁこれが走馬灯か…)


ゴーレムが手を握り締め手を振りかざしている


この一撃を受ければ確実に”死ぬ”


スローモーションの動画を見るようにゆっくりとした動き


同時に高速再生されるクソみたいな人生の記憶


そして、ゴーレムの戦いはじめを走馬灯は再生を始めた


何度も修復されるゴーレムの体。


赤く光る眼


背中の左わき腹付近にある六芒星の模様


ゴーレムの一挙手一投足全てが思い出される


(うん? 六芒星? どこかで見たような…)


最初、試練を受けるために自らの血を垂らした模様も六芒星だった。


(偶然なのか? でも血を垂らしてこのゴーレムは生まれた)


体中の痛みが考えを鈍らす。目の前にはゴーレムの巨大な拳が迫っている


(もし、あれが魔法陣だとしたら、ゴーレムの背中の六芒星を破壊すれば…)


最後の気力を振り絞り全力でゴーレムの拳を躱す


高速移動に体が軋む


激痛が身体に走る


気を失いそうな痛みに耐え一歩を踏み出しゴーレムの背後に移動する


先程の走馬灯で見た六芒星があった。


「くっ、、、もう魔力は無い。直接叩くしか、、、」


生き残る為に最後の賭けに出る


もし狙いを外しても二撃目を繰り出す力は無い


もし無事砕いたとしても止まる保証はない


もし無事に倒せたとしても二体目が来ない保証もない


不安と生への執着が葛藤する


折れた左腕は動かない


右腕でしっかり柄を握りしめ、背中の六芒星に狙いを絞る


地面を力の限り蹴りこみ懐に入り込む


望みを込めて剣を振り上げる


だが血で柄が滑り振り剣が後方へ飛んでいった


「あっ……」


運にも見放された僕にゴーレムは振り向きざま攻撃を繰り出す。


右手でゴーレムの拳を殴り相殺する。


しかし態勢が悪く打ち負け、再び吹き飛ばされた


アドレナリンが出ているのか痛みは感じない


しかし右腕も折れていた


もう武器も握れない。魔力もない


流の敗北はほぼ確定した


だが流の目に諦めは無い


”生き残る”


その強い意志に運が小さく手を差し伸べた


吹き飛ばされうつ伏せに倒れる流


顔を上げると目の前に先程飛んでいった剣が落ちていた


芋虫が這うように剣に近づき、柄を噛みしめ立ち上がった


「ふぅーーーふぅーーー」


獣が呼吸するかのように荒い息づかいが聞こえる


剣を噛みながら雄叫びを上げて走り出す


正真正銘最後の一撃


ゴーレムは攻撃させまいと先程とは違い連続攻撃をしかける


雨のように降り注ぐゴーレムの攻撃を紙一重ですり抜け背後に回る


連続で攻撃を繰り出していたゴーレムは前のめりになり六芒星ががら空きになっていた


生きるために飛び込んだ次の瞬間


六芒星に剣が突き刺さる


同時に流の歯が砕け、剣から口が外れた


身体を支える力も残っていない


流はその場に倒れ意識を失った。




ぴちょん


天井からしたたり落ちる水が頬に当る


ひんやり冷たい水滴は頬を伝い口に入る


「う…くっ…」


ゆっくり体を起こす


地面に触れていた側の頬に何か粘っこい液体が付着していた


「うわぁ、げーーー俺のさっき垂らした唾じゃん」


袖で急いで拭う


「あれ?そういえば折れたはずじゃ?」


手を見ると折れていない


それどころか体中に感じていた痛みも無くなってる


最後に砕けた歯も全部無事だ


「あっゴーレムは!?」


辺りを見渡す


すると、壁に光る文字を見つけた。


近くまで行き読んでみる


――― 試練を超えし者 道は開かれた ―――


文字の下には通路が現れていた


「どうなってる? 試練を乗り越えた場合全回復するのか? 着衣にも一切汚れもない。そもそもさっき戦っていた場所に痕跡すらないぞ?」


自分の体を隅々まで確認する


今の状態は”全回復”というより、この階に降りてきた時と同じ状態だった


残存魔力も変化が無い


「もし全回復なら消費している魔力だって戻るはずだ」


流は一つの仮説を立てた


「そうか、あの激しい光。そして血を求められたって事は…試練は精神世界で行われたのかもしれない」


現状から推測するにほぼ矛盾が無い答えだと感じた。


「つまりあの六芒星は精神だけを抜き出す魔法のトリガーになっていたのかもな。そういえば聞いたことある。精神の死は体にも反映される。僕があのまま死んでいたらそれは現実の死でもあったという事か」


現れた通路を進みながら考察を続けた


「そもそも変だったんだよ。召喚勇者の僕が一撃で骨が折れるなんて。つまりあのゴーレムは相手に合わせた強さになるのか。そりゃそうか。精神世界なら辻褄が合う。そういえば最初血を捧げよって文字があった。僕の剣は自分の血で濡れていた。もしかして精神世界でもゴーレムの六芒星に血を付けたら良かっただけなのでは… そもそも六芒星破壊がゴールなら【インプロ―ジョン】を放った時倒せていたはずでは…」


自分の頭の悪さと、性格の悪い試験両方に腹が立つ


しかしそれと同時に”生”に執着が有ったことに自分自身が一番驚いた


死を目前にした時人間は本音が出るという


「そうかぁ。僕って死にたくなかったんだなぁ」


深層心理にある自分の願いが少し分かった気がした


立ち止まり大きく深呼吸した


「生きててよかった」


素直に喜んだ


少し開けた部屋に出ると、先程戦ったゴーレムの石像があった。


大きさは一メートル位だが、手を高く上げたデザイン。


その手が持っている物は”宝箱”だった


「おぉ!初めての宝箱だ!この中に”呪われた隷属の首輪”があるのか!?」


ドキドキしながら宝箱を開けると中には革製のショルダーバックが入っていた


「えぇぇ…あんなに苦労して手に入るのがこんな安物っぽいバックなのかぁ…」


落胆しながらも一応宝箱から出たものだしと思い手に取り肩に掛けた


石像の裏には地下へ進む階段があった


まだ、目的の物は手に入れていない。


今引き返せば、今までの苦労が水の泡になる


「先に進もう。僕は絶対”呪われた隷属の首輪”を手に入れるまで帰らない!!」


覚悟を決めて階段を降りた



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