第4話 負けられない戦い

僕に声をかけてきたのは魔王軍第三師団長【狼王 ガルーフェン】という狼に似た魔人だ


鋭い牙、刃物より鋭い爪、180cmを超える筋骨隆々な体格。何より膨大な魔力をしっかりと抑え込めている所からみても相当な実力者だと分かる。声をかけてきた理由が分からない今はいつ攻撃されるかも分からない。僕は最大限警戒しながら後をついて行った


(最悪攻撃されても僕のステータスなら即死になることは無い)


魔王軍に来て初めて僕はステータスという物を知った。召喚した奴らはそんな事教えてくれなかった。そもそも魔王に話を聞いて驚いたのは【勇者専用武器】という物があの国にはあるそうだ。

あの時、王が側近に耳打ちしてた内容は予想するに(勇者武器は持たさず普通の武器を与えよ)とかなんだろう。


(思い出すだけで腹が立つ。どうせ僕が不細工だからって馬鹿にしてるんだろう)


そんな事を思い出しながら薄暗い廊下を警戒しながらついて行った。


突然ガルーフェンが振り返り声を発した


「おい勇者、貴様が倒した魔王軍の幹部が一人、【鹿王 ディアムルク】は俺の獲物だった。奴とはいつか決着をつけようと考えていた。それを貴様が倒した」


狼と鹿ってそういえば狩る側と狩られる側だったと元居た世界の歴史を思い出しなぜか笑えてしまった


「あ……うん……ごめんね」


僕はとりあえず謝っておいた。いじめられっ子の僕は何か言われれば無条件で謝罪する。これは体の細胞レベルにまで組み込まれた処世術なのかもしれない


「はんっ。別に敵討ちなどという気持ちは微塵もない。ただ、奴を倒した貴様と剣を交えれば、ディアムルクと儂のどちらが上だったか分かると思っただけじゃい」


そういうと目の前の扉をガル―フェンは両手で押し開いた


扉の中には何もない下が土の大きな広間がそこにあった


「ここは訓練場だ。勇者よ此処で手合わせ願おう」


「えー!? 今から? だって……ほら怪我したら怖いし.。。」


「ふん、怪我を恐れていては強さなど手に入れることはできん。さぁー立ち会え。貴様が逃げる背を向けたのならその瞬間引き裂いてくれるわ」


ガル―フェンは既に戦闘モードに入っていた。魔王軍は確かに力序列の意識が強い。強ければ偉い。 シンプルにして不変的な物。粗暴な奴らが多い魔王軍ならでわだ。だって人間の王様なんて明らかに兵士より弱い。人間は血筋だ伝統だと細かい腹芸が多い。知的生物が所以のメンドクサイ部分だ。その観点から考えてみれば魔王軍の方が好感が持ててしまうと考える人間も多いのではないだろうか。もちろん引きこもりニートの僕からすれば、世界は僕をほったらかして回ってくれればいい派です。


「怪我してもしらないからな」


「やる前から勝利宣言とは楽しみだ。くれぐれも失望させてくれるな!!」


そういうとガルーフェンは僕に襲い掛かってきた。


鋭い爪を武器に上から腕を振り下ろす


僕はバックステップでそれを避けるが、恥ずかしくも尻もちをついてしまった。スキルが高くとも運動能力皆無の僕は、僕自身を使いこなせていない


「戦闘中に尻もちとは余裕だな勇者」


ガル―フェンは闘技【速力向上】を使い僕との間を一瞬で詰めた


「これで終わりか勇者!?闘技【超貫通】」


ガルフェンの爪が紫の光を薄っすら放つ


僕は魔法を放った


「ぐっ…【ストーンウォール】」


僕とガル―フェンを隔てるように3メートル程の土の壁が地面から生えるように突き出る


「甘い!」


ガル―フェンはそのままストーンウォールに突きを放つ。武技で強化された爪はまるで豆腐のように土の壁を容易く貫通した。視界が遮られていたお陰で直撃は避けたが頬を爪が撫でていった。血がゆっくりと湧き出るように溢れてきた


「ちっ、外したか」


壁に刺さった腕を抜き取る。貫通した個所は奇麗な穴が開いていた。あれが身体に直撃していたら無事では済まなかっただろう。相手が本気で殺しに来ている事が分かった。僕は腰に刺さっていた剣を抜き、ようやく戦う覚悟を決めた。


「ようやくお目覚めか? ずいぶん寝坊助な事だな。まぁいい、ここからが本番という事だな」


ガル―フェンもどうやら本気を出したようで体から魔力が溢れ出ている。


今度は流から先手を打った


「いくぞ!【ニードルランス】】【エターナルスワンプ】【ヘルプリズン】」


僕は続けざまに三つの魔法を放った。

ガル―フェン足元を底なし沼に変え、周りを超高度の金属に変化させた牢で囲み、十数本の高速回転する金属の矢を放った


足を取られたガルーフェンはよろけたが、すぐさま体制を整え、エターナルスワンプから脱出を試みた


「闘技【飛脚】」


空気中に地面があるかのようにその場を蹴りながら空中へと脱出した

しかしその周りをヘルプリズンが囲っているため即座の移動は出来ない


「ちっ、【超斬撃】【斬撃飛翔】【筋力向上】」


ガル―フェンは多数の闘技を使いこなす戦士タイプの魔人の様だ

僕のヘルプリズンを切断してその場を抜けた。

しかし、最初のよろけたその刹那に満たない時間がニードルランスの直撃を決定づけた

十数本中二本以外は破壊した速度と反応力は感心した

しかし、左足太ももと右肩には僕のニードルランスが貫通し反対側の景色が顔を見せていた。


「ははは、やるな勇者よ!、お互い満身創痍だな」


ガル―フェンは先程のエターナルプリズンを破壊する際、実は僕にも斬撃を放っていた。

それに気づいた時には時すでに遅く防ごうと努力したが袈裟切りのように左肩から右わき腹に掛けて大きな傷を負った


傷口を抑えるも血が溢れ出る。回復魔法は僕は使えない

お互いの出血量を考えると、次が最後の一撃になるだろう。

僕は正直反省していた。いや自分の愚かさに怒りを覚えていた。ステータスでは明らかに僕の方が上だ。しかし、相手に攻撃が当たった事で気が緩んだ。勝ったと決めつけてしまったのだ。

今回の戦いは学ぶ事が多かった。


「ガル―フェン。行くぞ…」


僕はガル―フェンに感謝と敬意を覚えた


張り詰めた緊張感に空気も呼応するように震える


お互い間を詰めるように走り出す。ガル―フェンは足を負傷してる動きが遅い

もちろん僕の傷も浅くはない。だが何故か痛みを感じない。この状況に興奮しているのかもしれない。アドレナリンが出ているのか妙な高揚感がある。今までは使命としてなんの感情も持たず魔物を屠ってきた。しかしこの戦いは何か違う物を感じる。

ガル―フェンとの距離が間合いまで詰まっている。僕は剣を振り下ろす。ガル―フェンは使い物にならない右腕を防御に使い剣を受け止めようとした。僕はとっさに剣の握りを解いて剣を捨てた。そして力いっぱい握り締めた右拳をガル―フェンのみぞおちに打ち込んだ。

スローモーションに感じたこの一瞬はガル―フェンが吹き飛んだ先の壁にめり込むことで幕を閉じた


「はぁはぁはぁ……勝った…」


僕は膝から崩れ落ちるも確かな勝利に右手の拳で小さくガッツポーズをした。


そこで意識は途切れた

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