第五章
第1話
「悪かった!」
この日、如月はいつもの様に教会に来た……のだが、入った瞬間に突然瑞樹に頭を下げられたのだ。
「……え? え?」
「え?」
コレで心当たりがあれば「そんな、頭を下げないでください!」などの対応が出来ただろう。
しかし、如月にはその肝心な「心当たり」が全くない。
むしろ、如月が瑞樹に頭を下げなくてはいけないくらい迷惑をかけている自覚はあるが、その逆は……全く心当たりがない。
「もう、全く! 理由もなしに突然頭を下げられても驚くだけだって言ったでしょ!」
どこから現れたのか、シスターが瑞樹の頭を来客用のスリッパで叩く。
「痛っ!」
かなり軽快で大きな音が教会内に鳴り響き、あまりにも突然だったので如月は驚きのあまり体をビクッとさせた。
「いらっしゃい、如月ちゃん」
しかし、シスターはそんな事は気がついていなかったらしく、如月の方を見ながら笑顔を向けた。
「いてぇよ! 姉貴!」
「全く前置きなしに謝られても如月ちゃんが困るだけでしょうが! ごめんなさいね」
「えと。おっ、お邪魔します。あのところで瑞樹さんはどうして突然謝られたのでしょう?」
「ああ、そうよね。本当にごめんなさいね、分かりにくくて。ほら、この間話した通り瑞樹はこういった事にあまり慣れていなくてね」
そう言いつつシスターは「ほら、ちゃんと説明する!」と瑞樹の服を引っ張る。
「わっ、分かっているつーっの! って、ちょっと待て。なんだ『この間話した通り』って」
瑞樹は、はたと止まり、シスターに思わず問いかける。
「あーっと……」
シスターは瑞樹に何を言われたのか分からず固まったが、すぐに理解したらしく、気まずそうに瑞樹から顔を背けた。
「あーっと、じゃないだろ! 何勝手に話てんだよ!」
「前もって何も話していなかったあんたが悪いんじゃない!」
もの凄い勢いで言い合いをしているが、どうやらシスターはその事を瑞樹に話していなかった様だ。
「……」
あまりにもすごい勢いで言い合いをしているので、如月は入る事が出来ず二人の様子を無言で見ていたが、気兼ねなく言い合いが出来ている二人を少し羨ましく思ってしまう。
なぜなら、如月は一人っ子で、学校でも基本的に一人で過ごしている事もあっただろう。
それに、塾では明日香と一緒にいる事が多いけれど、こういった言い合いをする事はあまりないと思う。
ただそれは決して明日香に遠慮をしているというワケではなく……どちらかというと、如月が先に折れてしまうだけの話なのだが。
しかし、二人が言い争いをしているこのタイミングで如月が下手なリアクションをしてしまうと、変な誤解を与えて逆に拗れそうに感じる。
「そもそも! 肝心な事を話していなかったじゃない」
「肝心な事? なんだよ」
「椎名の事よ!」
「!」
シスターが「椎名」の名前を出した瞬間、あれだけ騒がしかった瑞樹がピタリと黙った。
「……なんであいつの話をしないといけねぇんだよ」
「はぁ、だから言ったでしょ。あいつに誘い出されたって」
シスターは「ふん」と言いながら腕組みをする。
「……そうか。それで」
「そうよ。それが分かったから、説明しないとダメよねと思ったの。理由もなしに襲われるほど怖い事はないわ」
そう説明すると、瑞樹は「そうだな」とそのまま大人しくなった。
「それもちゃんと踏まえて、説明をして謝らないと分からないでしょ?」
「それは……そうだな。ただ謝られても分からない……か」
どうやら納得したらしく、瑞樹は再度私に頭を下げ「すまなかった。俺が熱で寝込んでいる時に危険な目に合わせてしまって」と付け加えた。
そこでようやく如月は何に対して瑞樹が謝っていたのか理解した。
どうやら瑞樹は前回シスターと一緒に行った依頼先で『怪異』が出て如月が危険な目にあった事に対して謝りたかったようだ。
「いっ、いえ。私はそんな」
「いや、そもそも俺が――」
瑞樹がそう話を続けようとしたところで、教会の扉が大きな音を立てて開かれた。
「!?」
「はぁ、はぁ……」
三人が振り返ると、そこにはおやっさんが息を切らして慌てた様子で駆け込んできた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます