第10話
「……いた!」
急いで向かった先にいたのは、茶髪の二十代くらいの男性。
「!」
しかし、そのすぐ後ろには……。
「人?」
男性を見下ろすように見ている髪の長い女性の様な人がいる様に見える。
「ん? 人? 確かに……いや、でも微かにしか見えないな」
「え」
如月がポツリと零すように言った言葉に対し、おやっさんは如月と同じように男性の様子を見ているはずなのだが……。
「おいおい、ありゃあヤベェだろ」
「やばい……ですか?」
「ええ、かなりまずいわね。まだ黒い塊とかモヤの方が良かったわよ」
しかし、距離がまだ遠いのか瑞樹は走る。
「よし、この距離なら! おやっさん、如月」
「ん?」
「はっ、はい!」
「あの人に声をかけてちょうだい!」
二人に頼まれた如月とおやっさんは二人の様子から慌てつつも「分かった」と言うように頷き、男性の元へと駆けた――。
「さて……と。お仕事しないとね。ちゃんと動きを止めるのよ?」
「分ぁっているよ。でも、ちゃんと調整しろよ。下手すりゃトラウマもんだかな。姉貴のは」
瑞樹はそう言ったが、シスターは「分かっているわよ」と笑顔で答えた……のだが、瑞樹は「大丈夫か?」と思いつつ準備に入った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あのぉ」
「あ、この間の刑事さん」
「覚えてくれていたんですか」
「ははは、覚えているも何も数日しか経っていないじゃないですか」
男性はそう言って笑う。
「あはは、そうですか」
おやっさんは笑いながらも、どことなくその笑顔が引きつっている。
「それで、どうかされたのですか?」
「ああ。実はこの間お聞きしたお話なのですが、何でも亡くなられた方と言い争いになっていたと聞きまして……」
「ああ、その事ですか。それは、あいつの作品が盗作だと分かったからですよ」
「え」
如月が戸惑った様に言うと、男性は「まぁ、普通はそうなりますよね」と言わんばかりにため息をつく。
「正直驚きました。あいつのアカウントは知っていましたが、少なくともあの人気が出た様なテイストのイラストは描いていなかった様に記憶していたので」
「じゃあなぜゲームを?」
「あれは、元々別の人が担当していたモノを自分が引き継いだんです。友人の方が何かと連絡が取りやすいだろうと」
「ただ。あまりにもテイストが違い過ぎたので何度かあいつを問い詰めたのですが、のらりくらりと逃げられてしまって」
そんな時に、盗作を訴えている人に出会ったのだと言う。
「実際にお会いして分かりました。その方は元々アナログで描いたモノを上げていたので、描き込みがされていた原作を持っていた。そして、あいつはそれを提出出来なかった」
「だから、ゲームのサービスを終了した……と」
「ええ、盗作する様な人間に仕事は任せられませんから」
「でも、あなたは……」
「自主退社しました。ただ、盗作の事実は公表しないと」
「そんな」
「まぁ、そうだろうなとは思っていましけどね」
男性は笑っていたが、その顔は苦しそうだ。しかし、それは当然の話だろう。
「そもそも、誰かしら責任は取らないといけませんから。それに、あの会社に未練もありませんし」
「でも、この件が世間に出てしまったら同じ業界で就職も難しいだろう」
「それは……そうですね。相手は腐っても大手の会社ですし」
「……」
このままでは握りつぶされてしまうという事が分かっているのだろう。男性は言葉少なく俯いた。
「あの、あった事をありのまま言えば良いと思います」
「え?」
「もっ、もみ消されるかも知れませんが、少なくとも隠しているよりは良いと思います。確かに、最初の方は盗作には気がつけませんでしたけど、あなたはそれに気がついてサービスを終了したって言うのは間違いじゃないですよね?」
「……」
如月がそう言うと、男性は「ありがとう、ちょっとやってみるよ」と言って笑って帰って行った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「はぁ!」
そう息を吐いたのは、おやっさんだ。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないな。正直、今にも襲いそうな『そいつ』を見ていたら気が気じゃなかった」
おやっさんが言った『そいつ』とは、如月たちの目の前で
髪が長すぎて表情などは見えないが、多分。女性ではないか……とかろうじて推察は出来る。
「まぁ、あの人は気がついていなかったみたいだけどな」
「それは多分、あの人自身の落ち込んでいたからですよ。自分の事だけで大変だったんです」
如月は目の前にいる人に言い聞かせる様に言う。
「で、俺たちはこれからどうすればいいんだ?」
おやっさんに尋ねられ、如月は「さぁ?」と分からず首をひねっていると……。
「伏せろ!」
次の指示を仰ごうと瑞樹たちがいるの方を向いた瞬間。瑞樹の大声が響き、如月たちはその場で伏せると――。
「え」
それを確認した瞬間。その女性の様な人は瑞樹のヒモでくるまれたかと思ったら、そのままシスターから放たれた『何か』によって体が貫かれていた――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「……」
正直、如月にとっては衝撃映像だった。いや、実際に起きた映像でもないのだが。しかし、まるで映像を見ているかの様だった。
「大丈夫だった?」
「はっ、はい。あの、さっきのあれが?」
「いや、あれはどうしようもない時に使う最終手段みたいなもんだ」
まるで如月の質問を意図していたかの様に瑞樹が答える。
「最終手段」
「ええ。普通は如月ちゃんも視た様な存在を『怪異』って言うのだけど、人間と遜色がない状態は危険なのよ」
「そっ、そうなんですか」
今もついさっきの事を思い出すだけで身震いがしてしまう。
「ごめんなさいね。本当はもっと隠密にするはずだったのだけど」
申し訳なさそうにシスターは下を向く。
「だから言っただろ。ちゃんと加減しろって」
「あなたがもっとちゃんと指示をすれば良かったでしょ?」
「ちゃんと指示しただろうが! 伏せろって!」
「もっと低くとか言い方があったでしょ?」
「あの状況でそんな細かく言えるか!」
この時になっても
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
後日、このゲーム会社の悪質な実体が浮き彫りとなり、その上。橋の上であった男性の告白もあり、このゲーム会社は倒産する見込みだと言う。
「ここ最近のゲームも、評判が良かったのもあのゲームくらいで後はパッとしていなかったらしいからな」
おやっさんはわざわざ教会まで報告してくれた。そして「後は社長の詐欺も立証出来たってんで、喜んでいたな。その課の連中は」と苦笑いをしていたのだった――。
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