第三章
第1話
「はぁ? っざけんなよ!」
「マジでないわぁ。このタイミングとかないわぁ」
「……?」
その日、塾を終えた如月は明日香よりも外に出ていると、ふとそんな事を言っている男子の声が聞こえてきた。
「優希ごめん。お待たせ……」
「あ、明日香」
「どうしたの?」
「え、いや。何でも」
如月はそう誤魔化したつもりだったが、明日香はどうやらお見通しだったらしく、如月が見ていた方向へと視線を向ける。
「ふーん。なるほどね」
「なっ、何」
「気になるんでしょ。あれ」
「……いや、別に気になるというワケじゃ」
だが、気にならないと言えば嘘になる。
「そう? 随分と熱心と見ていると思うけど」
「……」
如月は父が亡くなって以降。ゲームはおろかプレゼントすらもらった記憶はない。それこそ、サンタクロースなんて如月の家には来た事がないのだ。
そんな如月にとって「気になる」という事は「どうしようもない事」と位置づけており、彼女にとって「物欲」なんてモノは邪魔なモノでしかなかった。
「ったく、イラストの盗作疑惑とかさ! 本当にないだろ」
「それが理由でサービス中止とか、はぁ。ないわぁ」
「せっかくここまでやったって言うのによ!」
「何、お前。課金したのかよ」
「ちょーっとだけな」
「へぇ? ちょーっとね」
「でもまぁ、確かにこのイラストレーターってゲーム前のイラストとかSNSで見たけど全然違ったもんなぁ」
「え、何。お前そこまで確認していたのかよ!」
先程から話をしている男子たちは、どうやら如月たちに気がついていない様だ。
「盗作……」
「最近結構あるみたいよ。以前からもチラホラとあったみたいだけど、SNSが普及した今は結構問題になっているみたい」
「そうなんだ」
「良くも悪くもお繋がりやすくなっちゃったからね」
「……何を?」
「人と人がね。今じゃ顔も知らない人と簡単に交流が出来るのよ」
そう言って明日香は苦笑いを見せるが、スマホも持っていない如月にとって今の話はあまり実感が湧かない。
正直、新聞で『SNS』の文字が出て来ても「私には関係ないし」とどこか他人事で眺めているだけだった。
結局のところ、自分の身近にあってこその「身近」なのだろうと如月は思っている。
「ちょっと……使ってみる?」
「え」
「将来的には持つと思うし、ちょっとでも使い方を覚えておくといいと思うのよね」
「……」
いくら「物欲は邪魔なモノ」とは思っていても、気にならないというワケではない。
「じゃっ、じゃあ」
如月は明日香の提案に「一理あるし」なんて自分に言い訳をしながら、明日香からスマホを受け取った――。
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